おおかみこどもの雨と雪

2012.08.05 05:45|映画感想
・永訣の朝
『おおかみこどもの雨と雪』
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 監督:細田守
 脚本:奥寺佐渡子、細田守 キャラクターデザイン:貞本義行
 音楽:高木正勝 美術監督:大野広司
 キャスト:宮崎あおい、大沢たかお、黒木華、西井幸人ほか


 ※ネタバレ有り
 
  ***

 田舎、大自然、農業、きょうだい、「雨」と「雪」・・・。
 本作のキーワードの連なりに、何かずっと頭の片隅をつつくものがあった。
 何か見覚え、いや、聞き覚えが・・・?

 そして劇中、花達が田舎に越してきてから季節が冬に移って、家の軒先につららが降りたシーン。
 ある言葉が脳内に響き渡って、私のもやもやは刹那に氷解する。

 (あめゆじゅとてちてけんじゃ)

 ああそうか。
 「永訣の朝」だ。


 そして本作に意識を戻して、ああこれってつまりそういう話なのかもなと急に腑に落ちた。

 この映画に、世間が求める規範や常識、ましてや「答え」などは存在しない。これはマジョリティ(に属していると思っている人)のための映画ではないから。

 あるのは「別れ」だ。

 花はおおかみおとこをある日唐突に喪う。
 成長した雨と雪は、台風の日に別れて以来、再会することはない。
 草平少年は母親の再婚のために見捨てられる。
 そして花は雨を野生から取り戻すことは叶わず、人間の道を選んだ雪も中学校に上がると家を出ていく。

 夫と妻も、母と子も、きょうだいも、家族はいつか必ず解体されるのだという事実が容赦なく刻まれる。
 それも、「死」による別れよりも「生」ゆえの別れの方が多く克明に描かれているのだ。

 「雨」と「雪」。
 天より降りて、私達の身を濡らし冷やし、時が経てばどこかへと消えていく水の一形態。

 別れの予感を常に孕んで私達は生きて、そして死んでいく。
 その度に悲しみ喜びが波紋のように生じる。
 本作はその一瞬一瞬を丁寧に切り取って祝福した映画なのだ、と思う。

   ***

 青い蓴菜のもやうのついた
 これらふたつのかけた陶椀に
 おまへがたべるあめゆきをとらうとして
 わたくしはまがったてっぽうだまのやうに
 このくらいみぞれのなかに飛びだした
 (あめゆじゅとてちてけんじゃ)


 ―――宮沢賢治「永訣の朝」より抜粋



 追記:ちょっと気が引けて、レビュー本文には書かなかったんですけど・・・。
 実は僕、この映画の鑑賞中には涙を一滴も流しませんでした。その代わり、観ていた時のエモーションが一日二日経っても全く減衰せずに続いています。
 後何日かしたら、突発的に泣くかもしれないなあ。

 追記2:劇中では明かされなかった〝おおかみおとこ”の名前はたぶん、「天」か「空」の文字が入ったものだったのではないか・・・と考えている。

 追記3:>家族はいつか必ず解体される
 いや、一概にそうとはいえないか。花達も住む場所や生き方は違ってしまっても、縁が切れたってわけじゃないし、受け継がれているものは確かにあるし。
 家族の「解体」というより、「拡散」なのかな。

 追記4:ちなみに細田監督、雑誌『SWICH』のインタビューで、本作の参考にした『台風クラブ』について「全編にわたって精液くさくて最高」という発言をかましており、やっぱこの人半端ねえなと改めて(ry
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ジャンル:映画

tag:おおかみこどもの雨と雪 細田守

Comment

No title

ご無沙汰しています。『おおかみこども』私も作品こそは違いますが終盤の校舎内のシーン、宮沢賢治の『風の又三郎』も連想させられました。
本作に限らずかつてのアニメの名作『セロ引きのゴーシュ』『銀河鉄道の夜』等、優れたアニメ作品はどこか宮沢賢治の世界観と通じる部分があるような気がしています。


また江楠さんが書かれている『別れ』というキーワード

鑑賞中意識してみてませんでしたが、思い返してみると仰るとおりですね
最後の方に書かれている江楠さんの一文『別れの予感を常に孕んで私達は生きて』~からの一文は本作の美しさを表現した心に残る感想でした。

ちょっと江楠さんの『別れ』というキーワードと似ているのですが
私は本作のキーワード安易な表現にはなってしまいますが『選択』だと思いました。

それは細田監督の『おじゃ魔女ドレミ』で描かれた人間になるのか魔女になるのかの選択
『時をかける少女』でのまことが決意する未来に対する選択

しかもその選択が、例えば勇気ある行動だったり、メリットのある行動だったりという訳ではない、どこか悲しささえも感じる選択をとるのが、間違っているかもしれない選択をとるのが、

私達が人生の岐路の中でリアルに迫られる選択を描くのが
『おおかみこども』に通じる細田作品全体の特徴だと個人的には思っています。

それはおおかみか人間かを選択する子供たちはもちろんですが


私にとっては結婚するか否か、将来的に子供を持つか否かという
というタイムリミットのある選択肢に対して

親になる事、子供を持つ事の選択肢を提示した
私にとっては人生を変えてしまう程の一作でした

長文スミマセン・・・でわww

>みみずくさん

コメントありがとうございます。

> 本作に限らずかつてのアニメの名作『セロ引きのゴーシュ』『銀河鉄道の夜』等、優れたアニメ作品はどこか宮沢賢治の世界観と通じる部分があるような気がしています。

本記事で引用した「永訣の朝」は賢治が妹の死を悼んでつくった詩であって、『おおかみこども』のテーマと直接的に結びつくものではないのですが、あの詩とそこから想起される光景が、本作の冬のシーンで何故か強烈にフラッシュバックしたんですよね。

宮澤賢治が描きだす世界は、テーマを超えて人の想像力の深層を刺激する要素がとても強いんだと思います。
だから、同じく想像力に賭けるアニメーションと馴染みが良いのでは・・・なんて考えています。

> 最後の方に書かれている江楠さんの一文『別れの予感を常に孕んで私達は生きて』~からの一文は本作の美しさを表現した心に残る感想でした。

「死んでいく」で結んだのは、ちょっとネガティヴにとらえ過ぎかなあって思ってましたが・・・w
何か心を動かせたのであれば、ありがとうございます。

> ちょっと江楠さんの『別れ』というキーワードと似ているのですが
> 私は本作のキーワード安易な表現にはなってしまいますが『選択』だと思いました。

あー、今自分でも気づきましたが、「別れ」ってのはつまり別々の道を行くということであり、言い換えれば生き方の「選択」ですよね。
みみずくさんの方がより普遍的に捉えていると思います。

>私達が人生の岐路の中でリアルに迫られる選択を描くのが
 『おおかみこども』に通じる細田作品全体の特徴だと個人的には思っています。

本作のクライマックスで、雨と雪の選択がそれぞれのかたちで結実したかのように映りますが、雨が野生のなかで本当にやっていけるのかどうか、雪が人間社会でまっとうに生きていけるかどうかはまだ分からないですよね。
二人はまだまだ選択の途上にいる。
それは、ひいては花の田舎への移住という選択への答えがまだ出されていないということでもあって。

本作では、数多の選択に一つとして答えは出されないことが徹底されていますね。それはまだ人生半ばで今の選択が正しいのかどうか不安だらけの僕達にとって強く共感するものだと思います。
でも、そんな選択一つ一つを最高のアニメーションでもって美しく鮮烈に表現していることが、「選択」の肯定であり祝福なのでしょうね。


長文コメ大歓迎ですので、是非またどうぞ。

No title

あめゆじゅとてちてけんじゃ!

この指摘は初めて読みました、最近賢治全集読み返してて
なんか色んなアニメの記憶が繋がっていく感じがして楽しいです

おおかみこどもから逸れますが、
自分にとって本当に好きな作品だけに意識を集中してみると
意外なほど作品同士の繋がりが深いことに気づかされて、
その繋がりの輪の中で、実は送り手/受け手の関係を越えて
こうしてネットで感想のやりとりを記録に残すだけでも
実は創作と繋がっているんじゃないかとふと思ったり.

僕は若干泣いてしまったのですがw、それでもたしかに
本作から受け取ったものは表層とは別に腹の底の方に溜まって、
簡単にはこの身体から出て行かず、これから日々の中にじわじわと浸透していく、
そんな予感がしています

監督はこう言われても本意ではないかも知れませんが、
やはり宮崎アニメのポジションに今年『おおかみこども』が存在するのは
偶然ではないのでしょうね

>ヒノキオさん


コメントありがとうございます。

> あめゆじゅとてちてけんじゃ!
>
> この指摘は初めて読みました、

冷静になると、イメージが偶然繋がっただけかなあと思いましたが・・・
でも何かセットになっちゃったんですよね。

>最近賢治全集読み返してて
> なんか色んなアニメの記憶が繋がっていく感じがして楽しいです

実は、レビューのネタにしてるくせして賢治作品て代表作以外あんまり読んでないのでw、そろそろたくさん読もうかなあと思ってます。
グスコーブドリも映画やってることだし。

> 意外なほど作品同士の繋がりが深いことに気づかされて、
> その繋がりの輪の中で、実は送り手/受け手の関係を越えて
> こうしてネットで感想のやりとりを記録に残すだけでも
> 実は創作と繋がっているんじゃないかとふと思ったり.

作品と作品のつながりを意識して、そこへの自分の思いを残すって意味では、一次的なものでも二次的なものでもそれほど変わらないのかもしれんですね。
ただ、そこから変に目線高くしないようには気をつけたいものです。

> 僕は若干泣いてしまったのですがw、それでもたしかに
> 本作から受け取ったものは表層とは別に腹の底の方に溜まって、
> 簡単にはこの身体から出て行かず、これから日々の中にじわじわと浸透していく、

わりと似た話の『ももへの手紙』ではボロ泣きだったんですけどね。
まあ僕の泣きどころはあまり当てにならないので・・・
(映像作品で一番泣いたのが、『ガキ使』DVDの山崎VSモリマンの章)

受け取ったものが腹の底の方に溜まる、ってのがまさに当てはまる感じで、何か日に日に本作への思い入れが強くなってきてます。

> 監督はこう言われても本意ではないかも知れませんが、
> やはり宮崎アニメのポジションに今年『おおかみこども』が存在するのは
> 偶然ではないのでしょうね

何かのインタビューで、ポスト宮崎を目指してるわけじゃない、って言ってましたしねw
でも、理屈を越えたエモーショナルな面白さの宿ったアニメ作品をコンスタントな間隔で作って全国にかける、ということが今最もできているのはやはり細田監督だよなあと思います。

No title

〝おおかみおとこ”の名前は、私は「風」かなと。
至る所で風が吹いていて、まるで花、雪、雨を包んでいるように感じたので。

一組の男女から命が生まれ、育ち、別れ、また新たな出会いから命が生まれ…
この作品は、人の「生きる」という本能に訴えかけてくる気がしました。

>通りすがり。さん

コメントありがとうございます。

> 〝おおかみおとこ”の名前は、私は「風」かなと。
> 至る所で風が吹いていて、まるで花、雪、雨を包んでいるように感じたので。

ああ! 確かに、本作での風の表現は際立つものがありましたね。
湖面を走る風の描き方とかヤバかったです。
そしてクライマックスには〝嵐”が吹き荒れ、子ども達の自立を決定づけるものになり・・・。
そう考えると「風」の案はなかなか説得力ありですネ。

> 一組の男女から命が生まれ、育ち、別れ、また新たな出会いから命が生まれ…
> この作品は、人の「生きる」という本能に訴えかけてくる気がしました。

僕は「別れ」に重点置いて観ていましたが、それを含めての人生の営みを描く作品でしたね。
また、運動、就寝、食事、排泄、嘔吐、セックスなど人の生理行動が、直接的もしくは間接的にさりげなくすべて描き込まれていたので、観ている側に自然にテーマを訴えることができたのかな・・・とも考えています。
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江楠

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