脳男

2013.02.19 02:05|映画感想
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原作:首藤瓜於『脳男』
監督:瀧本智行
脚本:真辺克彦、成島出 音楽:今堀恒雄、ガブリエル・ロベルト
キャスト:生田斗馬、松雪泰子、二階堂ふみ、江口洋介ほか

   ***

「やあやあ、観たよ『脳男』!」
「へえ、どうだった」
「いやあ、これがねぇ~。何とも難しい映画だったねえ」
「え、なに、難解なゲージツ映画なの?」
「ううん、違うよ。精神医学的な要素もあるけど、基本的に血しぶきぶっしゃーピストルばんばん爆弾ドカーンな話だから」
「じゃあ何が難しいのさ・・・っていうか何でこの感想記事、会話形式なんだい? このブログで今までこんな風に書いたことなかったじゃないか」
「いやあ、映画感想をしばらく書いてなかったから、すっかり書き方を忘れてちゃってねえ。ならいっそ初めての書き方でやってみようかと思って」
「はあ、そうかい・・・って、会話形式ならYahoo!映画の方で何度か」
「止めろー! あっちのはじめの1,2年分辺りはほとんど黒歴史なんだよ!」

「ぜえぜえ・・・。で、何が難しかったのかってはなしだけどね、まあ今は自分の中である程度整理できたんだ。そうだな、まずはこの映画で素直に良かったと思うところから話そうかな」
「ふむ。どこが良かったの?」
「そりゃどこもかしこもさ。まずハナシが良いよ。前半は主人公“脳男”の謎を精神科医の松雪泰子が解明していくサスペンスミステリーで、中盤からは二階堂ふみ演じる爆弾魔が動き出して、カークラッシュありガンアクションありの景気の良いクライムエンタに突入。クライマックスは爆炎相次ぐ病院での脳男VS爆弾魔! 実に淀みないストーリー展開だ。 爆弾のトリックやあるキャラの再犯の兆徴とか、細かい伏線もソツなく活かせてる。僕は脚本術云々を専門的に語る言葉を持ってないけど、それでもこの映画の脚本(原作込みで)がよく練られてすっきりまとまったエンタメだってことはよく分かるよ」
「ほうほう」
「・・・いや、正直言うと、前半のプロファイリングのくだりは退屈なんだけどね。基本、会話のシーンばっかりで事件そのものは進展しないから。でもそこかしこで、車が横切る深緑の山野とか、夕日にたそがれる脳男とか、そういう優美な情景が映されるんで、視覚的にはそんなに退屈しないんだよ。そもそも、普段の映像からしてくっきりパキッとしてて観てて飽きないね。これは、他の人のレビューでも言及されてたんだけど、本作の撮影の人とそのカメラ機材が何か凄いんだってさ」
「カタカタカタ(ググる)・・・撮影監督:栗田豊通。有名どころでは相米慎二の撮影監督を務め、洋画でもアラン・ルドルフロバート・アルトマンとか巨匠と組んでるんだね。凄い経歴じゃないか。で、本作のデジタル撮影に使ったのが・・・IS-100?」
「色調整の新システムだそうだよ。デジタルシネマは現場ごとにモニタ環境がバラバラで、映像の色調がシーンごとにちぐはぐになってしまうんだけど、IS-100を使うことでそれをあらかじめ統一・調整して作ることができるらしいね。つまり映画全体の色調に一貫性を確保できるんだな。(http://fujifilm.jp/business/broadcastcinema/mpfilm/exposure_news/008/)まあこれ以上詳しいことは専門家に聞いてよ。ともあれ、この撮影のおかげで地味な前半もじゅうぶん持たせられてる。そして中盤からは、アクションシーン、爆破シーンをはっきり美しく映し出すことにその技能を全面展開している。この映像美だけでも一見の価値アリだよ。5億点!(©宇多丸)」
「最近そのワード好きだね」

「そんで、脚本、映像ときて、役者がまた素晴らしいね。まず主人公“脳男”を演じた生田斗馬。感情の欠落した美貌の殺人マシーン、確かにこんなヤツを演じるには彼のルックスが相応しい。しかも、この役のために相当体を作り込んだそうで、めっちゃキビキビ動けてる。劇中上半身が露わになるシーンではその肉体美を堪能できるよ。松雪泰子が彼を脱がせてね、「マスターベーションするの?」とか「私とセックスしたい?」って訊きまくるんだ」
「嘘じゃなくても語弊のある言い方止めろ!」
「しかし、そんな生田斗馬をも霞ませるほどの存在感を魅せつけたのが、爆弾魔の緑川役の二階堂ふみだ。余命いくばくもない身体を抱えて、びびっと同族シンパシーを感じた脳男をぶっ殺そうと画策するんだ。基本的に目が常時イっちゃってる。僕は彼女の出演作を全部観てるわけじゃないけど、近年トップクラスのぶち切れサイコ演技だったんじゃないかな。粗暴な刑事役の江口洋介とか、更生した殺人者の染谷将太とか、他の役者も総じて良かったね。ともかく皆、人物造形がどこか過剰で、それでいてただのエキセントリックになる一歩手前で抑えられている。この塩梅はなかなか面白かったな」
「ふうん・・・。こう聞いてみると、ふつうに傑作と言って問題ないように感じるけど? 一体何で評価に苦しんでたんだい?」
「うん・・・。話はここからだよ」

 ※以下、クライマックスのネタバレあり

「映画ってのはさ、勿論それ単体で楽しむってことは大切なんだけど、一方で過去作品からの文脈やオマージュの組み合わせで出来ているって側面もれっきとしてあると思うんだけどさ。この映画から、僕がどんな作品を連想したと思う?」
「そうだなあ・・・。要はイケメンの殺人鬼が出てきて、精神科医や刑事がそれを追いかけるんだろ? 何となく、『羊たちの沈黙』『MONSTER』(浦沢直樹)の合体、みたいな印象を受けるけど」
「ああ、そうだね。確かにその二つの影も強く見て取れる。他にも、生田斗馬の容赦ないアクションシーンからは『アジョシ』『SP the motion picture』の影響も感じたかな。・・・でもね、僕が一番この映画が志向していると感じたのは、『ダークナイト』なんだよ」

「『ダークナイト』? クリストファー・ノーラン『バットマン』シリーズ2作目の?」
「うん。撮影の新技術の活用、イカレた犯罪者達、護送車襲撃、病院爆破、命の選択ゲーム・・・類似点を挙げればキリがない。何より、脳男をめぐって問われる人間性の是非が、『ダークナイト』のテーマに通じると思うんだ。」
「へえー・・・、うん? それはこの映画のプラスにカウントされることじゃないのかい? 『ダークナイト』は、まあ賛否両論ではあれ、アメコミ・ムービーのエポックな作品だろう。日本映画作品がようやくその地点に追いついたってことじゃないの?」
「いや、だからさ。『ダークナイト』に似ているぶん、あの作品の悪いところもモロに受け継いでしまっているようにも思ったんだよ。ショッキングな展開で高圧的に攻め立てる物語への疑問とか、主要キャラの戦いの裏で無駄死にした人が多過ぎることとか、人間の善性を信じた者への仕打ちがあまりにもあまりだとか。つまり、『ダークナイト』の型をなぞって短所も無自覚に取り込んでしまったんじゃないかってこと。それに、本気で本作と『ダークナイト』と比べたら、規模やクオリティの差は歴然なわけで。・・・ミもフタもない言い方すると、これって、日本映画で『ダークナイト』ごっこやってみました、ってだけの話なんじゃないかってさ」
「ミもフタもなさすぎるよ! ええ、そんな映画なの?」
「いやいや。ここからがやっと本題なんだよ。」

「まあ言った通り、本作は『ダークナイト』と似通った部分が多く、だからこそ欠点も目立ちやすい。でもね、もっとよく考えると、本質的なところはだいぶ違うんじゃないかって考えが出てきたんだ」
「ほう?」
「例えば・・・『ダークナイト』のジョーカーに本作で相当するのは、爆弾魔の緑川だ。十代の少女ながら殺人爆破を繰り返してきており、劇中では脳男を狙って大破壊を繰り広げる。先に言った通り病院に爆弾をしかけて、追ってきた刑事には「脳男殺さないと部下の新米爆破しちゃうよ~?」と究極の選択を迫ったりする」
「おお、まさにジョーカーじゃないか」
「ちなみに外見は和製リスベット(『ミレニアム』シリーズ)って感じだね。・・・でも、彼女はジョーカーみたいに人間の悪性を暴きたててやろうという哲学的な思想があるわけじゃない。ただただ脳男に惹かれて、彼と殺し殺されの極限の戦いをしたいだけなんだ。そして対する脳男も、『悪を裁く』という使命を抱えているけれど、バットマンのように己の行為に葛藤したりなんかはしない。そもそも感情がないんだから。」
「なるほど、脳男も爆弾魔も本当にただの怪物なわけだ。バットマンとジョーカーのように戦いつつ善悪問答をするわけじゃない、と」
「そう。この映画で人間性を見出そうとするのは、脳男を追う精神科医や刑事たち一般人だけなんだ。そしてクライマックスで脳男は爆弾魔にとどめをさそうとするんだけど、精神科医の必死の呼びかけで踏み止まる」
「あれ、感情に目覚めてしまったのかい」
「そこはわりと微妙なんだけど・・・まあそれがセオリーなんだろうな。でも、だ。後日、脳男は、かつて精神科医が更生させた殺人者の青年を殺すんだ。同時に、青年が実はまた犯罪をおかそうとしていたことが発覚する。脳男は、精神科医が自分のために泣いてくれたから、その恩返しというか、礼として殺したんだと宣う」
「おおう」
「つまり、彼は自らの感情や善性を取り戻したからこそ、余計に質の悪いモンスターとして覚醒してしまったんだ。そしてそれは、彼にそうした人間性を目覚めさせようとした精神科医が引き起こした事態でもあるわけだ。この辺、ある意味では『ダークナイト』より深い結末だと思わないか?」
「へえ・・・。じゃあやっぱり、この『脳男』は『ダークナイト』に比肩し得る作品だってことかい」
「君は何を聞いてたんだ。スケールじゃ及ぶべくもないし、本質は違うって言っただろ。・・・そんなラストシーンの後、エンドロールなんだが、そこでキング・クリムゾンの名曲「21世紀のスキッツォイド・マン(精神病者)」とともに、脳男のハイライトショットが流れる。もうアゲアゲだよ。小難しいテーマなんかポイッ。ここで観客の作品へのイメージは更新・統合される。これはあくまでも脳男の大暴れに痺れる憧れるー的な、『ダークナイト』の構造を借りた日本流のバイオレンス・エンタテインメントなんだよ。そこに哲学や人間の善悪を見出すのは一般人の勝手だと、物語自体が弁えている。「感情移入」とはよく言ったもんだ。」
「ええー・・・。ここまでさんざん語っておいてそれ?」
「ちなみに僕の感情移入は、中盤からはもうずっと『脳男頑張れー! やれー! ぶっ殺せー!』って内心叫びまくりだったよ」
「危ない! 危ない!」
「染谷将太の青年もね、最後じゃなくてもっと早く本性カミングアウトしてさー、患者の子ども目当てとかで彼もクライマックスの病院に来てれば良かったんだよ。そしたら人間失格脳男・余命一カ月の爆弾魔・ショタ趣味誘拐犯そろい踏みのサイコ野郎三つ巴大決戦って感じでもっと盛り上がったじゃん?」
「君がいま最悪な本性カミングアウトしてるよ!?」
「はーい、というわけで『脳男』おススメでーす」
「カウンセリング受けてこい!」

   ***

 余談ですが、本作を観た名古屋ミッドランドスクエアシネマに、今秋公開予定の高畑監督『かぐや姫の物語』の宣伝パネルがあって、そこに書かれた宮崎駿のコメント「早く完成させなさい!」「かぐや姫の物語より風立ちぬの方が面白いです」に腹筋崩壊しました。
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tag:脳男 瀧本智行 生田斗馬

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すいません、自分のブログなのに何故か返信コメントが認証されなくてこちらにお邪魔します
(なんか不適切な語がどうとか.返信は後で文章を変えて投稿しようかと思います.情けない・・・w)

今さらですが『脳男』興奮しましたね~
ストーリー的には同じく、ノーランや園子温に対する醒めた感情や『サイコパス』前半で切った気持ちとも一緒で
こういう前のめりな、高圧的な語り口の「物語」としての歪さにはもうノレねえなぁってのがあったので
早々に感情移入のスイッチは切ってw 映像を楽しもうと思ったのですが
やっぱラストの「爆弾ドーン!」そして「脳男が車にバーン!」の、あのなんて言えばいいんだろう、
unuboredaさんがロブ・ゾンビの『ハロウィン』的と仰ってましたが
正にそういう、映画が理屈でなく肉体言語で魅せてくれるあの感じ
実写『るろ剣』で刃衛が警官を吹っ飛ばす場面で「うおおおっ」となった身としては
あの重量感にまいってしまいました
あれだけはどんなに真似してもアニメではも一つ何かが足りないんですよね

>染谷将太も乱入しての3つ巴

うわもう最高ですね、続編やるとしたらそんな感じで狂ってて欲しいですw
あまりに怪物過ぎて何故か観終わってちょっと切ない、それこそロブ・ゾンビ『ハロウィン』のようにならないかなぁ.

>ヒノキオさん

コメントありがとうございます。

> こういう前のめりな、高圧的な語り口の「物語」としての歪さにはもうノレねえなぁってのがあったので
園監督作品(『愛のむきだし』しか観てないんですが)もノーラン作品も、「面白いけど息が詰まる」ので、観るとめっちゃ疲れるんですよねw つまらないってこたないんですが、もうちょい肩の力が抜ける部分がほしいところでした。だからその点ではやはり『脳男』も同じで、全編張り詰めてしまっている感は否めないです。

サイコパス、2クール目の今は常守が物語に負けじと頑張ってて面白いんですよ。ラストでまどマギみたくあっさり超越してしまわないことを祈ってますが・・・

>やっぱラストの「爆弾ドーン!」そして「脳男が車にバーン!」の、あのなんて言えばいいんだろう、
> 正にそういう、映画が理屈でなく肉体言語で魅せてくれるあの感じ
いやもう、脳男が撥ねられまくるシーンで涙ぐんでしまいましたw
あれは、ただショッキングなだけじゃない何かがスクリーンに宿っていたような。

あと、車の窓ガラスを拳で砕くシーン、『アジョシ』の終盤でウォンビンが防弾ガラスをゼロ距離射撃で破るのを連想しませんでした?w

> あの重量感にまいってしまいました
> あれだけはどんなに真似してもアニメではも一つ何かが足りないんですよね
アニメだと、「現実の重み」に近付けば近付くほど「現実のモノでない軽さ」が付きまとうので、描写そのものだけでは無理なんでしょうね。

> あまりに怪物過ぎて何故か観終わってちょっと切ない、それこそロブ・ゾンビ『ハロウィン』のようにならないかなぁ.
僕はその切なさにこそ感じ入ってしまって、あの終わり方が大好きになりました。
ていうかこれは『ハロウィン』要チェックだな~
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