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戦争と一人の女

2013.05.01 21:53|映画感想
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監督:井上淳一
脚本:荒井晴彦、中野太
キャスト:永瀬正敏、江口のりこ、村上淳ほか


※ネタバレあり
 
 
   ***

 冒頭――。
 兵隊服に身をつつんだ男が、煤けた病院から出てくる。彼は浮かない顔で、その物々しい服の右の袖は頼りなく風にゆらめいている。中国の戦線にて彼は右腕を失ってしまったのだ。
 そんな彼を、妻と幼い息子が迎えに来ていた。妻は夫を痛ましく見遣るが、息子はずっと戦地に赴いていた父の顔を忘れてしまったようで、母の陰に隠れてしまう。やはり表情の晴れない男は、義手の製造が退院に間に合わなかったことを述べ、そして空っぽの服の右袖を神経質に掻き撫でる。
 妻が何をしているのかと訊くと、男は憑かれたような声で答えた。

 「右手の先が、痒いんだ」
 
 幻肢痛(ファントムペイン)。
 身体の一部が欠損した際、その失われたはずの部位がまだあるかのように、「そこ」に痛み痒みといった感覚をおぼえてしまう症状だ。人は、それまで当たり前のように存在していたモノが急に失われてしまった時、その事態を脳があるいは心が納得できず、まだそれがあるかのように振る舞ってしまう。
 そしてその男が突然奪い去られたのは、その片腕だけではなく、「戦地」という状況そのものでもあった――。

 そんなシーンから始まるこの映画はつまり、「実感」についての物語なのかもしれない。

 原作は坂口安吾の同名小説。戦中・戦後を生きた男女の物語だ。女は元売春婦で、男は彼女の淫奔さにかまわず「どうせ戦争で滅茶々々になるだらうから」と二人でその破滅の時を待ち焦がれて暮らす。しかし、戦争はある日あっけなく終わり・・・。

 と、こんな話を、この映画は「右腕をなくした帰還兵」というオリジナル要素を加えて、主人公の男女と帰還兵の物語を交互に描いていく。
 そして、原作では特に設定のなかった主人公の男は、この映画では明らかに坂口安吾その人をモデルにした人物として描写されていた。終盤ではあのエッセイそのままの科白を言ってみたりと、安吾ファンはにやりとさせられる箇所がいくつも。

 先に述べた通り、僕はこの映画を「実感を求める人々の物語」として観た。
 女は、誰とでもいつでも寝るような質でありながら不感症に陥っていて、性の快楽に飢えている。そして、全てを破壊する戦争に憧れを見出している。生(エロス)と死(タナトス)両方の「実感」に彼女は惹かれているのだ。そんな女と暮らす作家の男もまた、彼女との暮らしを投げやり気味に続けつつ、彼女の実感の飢えに共感している。
 そして帰還兵の男は、右腕の「実感の幽霊」に悩まされながら、もう一つ、戦場で体験したある「実感」を再び欲していた。中国戦線での、兵士でない一般市民への強盗、殺戮、強姦。その地獄から突然銃後へと引き戻され身の置き場をなくしてしまった。そこで彼は、往来で食料調達に悩む女性を見つけては、米を安く分けてくれる農家があるといって山林に連れ込み、強姦した後殺害するのだ。そうして彼は戦地の状況を、そこで味わった感覚を再現していた。

 原作は主人公の男女が対に描かれている。だが、この映画で女と真に対になっているのは作家ではなく帰還兵の男の方ではないか。身体の一部を欠損し戦争の記憶・実感にとり憑かれている兵士の男と、五体満足でありながら不感症で戦争による破壊に憧れる女の対比。
 作家の男は、戦争が終わりを告げた後は女と別れ、安吾よろしくヒロポン中毒にかかり、『堕落論』のあのことばを・・・。

 そして女と帰還兵の男は、終盤、出会う。
 同じく生と死の実感を求めさまよった二人。しかし、そこで物語のセオリーに則って二人が「互いに」充足することはない。一方は余計に飽くなき欲求に囚われることになり、また一方は戦時と平時/前線と銃後の矛盾に引き裂かれまま、ある叫びを残してフェードアウトする。

 何を以って「生きている」といえるのか?
 「生を実感すること」イコール「生きていること」なのか?
 またそれは「人間としての生」と同義なのか? 
 そんなこんなは、けっして過去のものではなくより今日的なテーマだ。戦中戦後の「今」をひたすら追求した坂口安吾の、至極まっとうな映像化。
 安吾ファンは観に行け。
 ついでに『UN-GO』ファンも観に行け。劇中の人物による安吾の文章引用とかもあるから。

 
 追記:
 短期間低予算製作という事情もあるのだろうが、映像の見栄え無さとカメラの不自然なブレは終始気になっていた。
 
 追記2:
 こうおススメしているとはいえ、コレふつうに18禁で性描写は露骨でえぐいし、坂口安吾の思想そのままというわけでもない(監督の戦争批判の意思が強く出ている)ので、観たくない人にはもちろん無理強いはしないです。
 
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テーマ:映画感想
ジャンル:映画

tag:戦争と一人の女 井上淳一 坂口安吾

Comment

No title

ここにきてひそかに安吾ブーム到来、とかならないですかねぇ
そしてうまいこと全部が『UN-GO』に集約されてって2期決定、みたいなw

いくつか読み散らかしてるんですが
太宰が時折混ぜる時評じみた文章にも似て、
現代作家の新作のようにまるで違和感なく時代と符号しちゃう言葉だらけですよね

それが普遍的であるからなのか、あの頃と現在に相通じるものがあるのか

>ヒノキオさん

コメントありがとうございます。

> ここにきてひそかに安吾ブーム到来、とかならないですかねぇ
だといいんですけどね~ 古典もの自体は最近元気だと思いますけど
いま『文豪ストレイドッグズス』っていう、日本の文豪が中二的ビジュアル&能力になって活躍する漫画が話題なんですけど、坂口安吾が登場するのが楽しみですw

> 現代作家の新作のようにまるで違和感なく時代と符号しちゃう言葉だらけですよね
> それが普遍的であるからなのか、あの頃と現在に相通じるものがあるのか
どっちもなんでしょうね。
「今日、我々の身辺には、再び戦争の近づく気配が起りつゝある。国際情勢の上ばかりではなく、我々日本人の心の中に。」(戦争論)とか、もう笑い事じゃないようなw
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