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朝井リョウ『何者』

2013.07.09 23:38|
 うぇるかむ とぅ ろっくんろーる なーいと♪ うぇるかむ とぅ ろっくんろーる なーいと♪・・・
 ジャジャッジャッジャッジャーン!
 ???「きっと“何者”にもなれないお前たちに告げる! 内定通知を手に入れるのだ!!」

 ・・・冗談はこれくらいにしてですね。いや、要はこういう話なんだけども。

 というわけで?朝井リョウ『何者』の感想です。
 
   ***

 「あんた、本当は私のこと笑ってるんでしょ」就活の情報交換をきっかけに集まった、拓人、光太郎、瑞月、理香、隆良。学生団体のリーダー、海外ボランティア、手作りの名刺……自分を生き抜くために必要なことは、何なのか。この世界を組み変える力は、どこから生まれ来るのか。影を宿しながら光に向いて進む、就活大学生の自意識をリアルにあぶりだす、書下ろし長編小説。
 (Amazon・内容紹介欄より)

 朝井氏の作品を読んだのは『桐島、部活やめるってよ』に続き2作目です。きっかけは、石野幽玄さんが運営するブログでの本作についての感想記事を読み、大変に感銘を受けたことで。
 最初にぱらぱらっと斜め読みした時は、「何かなあ、ただ深刻ぶってるだけじゃないの~」とか思って、ついつい批判的なツイートなんかしちゃったんですけど。
 改めて最初から最後までじっくり読むと・・・すげー面白かった! 本当に!

 テーマは「就活」という重く切実なもので、作品全体も登場人物たちの腹芸の探り合いが醸すヒリヒリした空気に満ちているんだけど、それでも読み進めていって真っ先に思ったことは「面白いぞこれ!」でした。


 何がまず面白いって、全体的な文体や描写の妙ですね。
 一言でいうと、非常に「映像的」な書き方がされている小説だと思います。登場人物の容姿や状況の仔細がことさら綿密に描き込まれている・・・というわけではなく、本来は背景に過ぎない事物の描写がいちいち物語展開の意味を示唆していて、その光景を強く想起させる、という感じです。
 たとえば、

 「そうなんだ?」
  ふふっ、と、瑞月さんが笑う。
 「光太郎、意外と頭固いよ」 
  グラスの中の氷が歯に当たって、キンとした。
 (p104)

 こんな風に。
 文章から切り出しただけなので意味は伝わりにくいですが、通しで読んでいると「氷が歯に当たって~」の箇所が主人公の心情をそれとなく的確に示した文だと分かります。
 つまり、ことばとして矛盾した言い回しだけど、「文章による非言語表現」が上手いっていうのかな・・・、そう、映像作品でいうところの「演出」的な表現が随所に散りばめられているのです。小説の技法としてはごく一般的なものなんでしょうけど、本作では特にそれが突出していた印象です。
 だから、実際にドラマや映画として映像化したらさぞ気持ちいいだろうなあと思わせる。逆に言えば、それを小説という媒体で十二分に表現できているという力量のあらわれでもあります。
 ただ一方では描写の意味構造が剥き出しだということでもあるから、この辺りは人によって好悪が分かれるきらいがあるかもしれませんね。

 ていうか普通に映画『何者』が観たいなあ。
 その暁には、『桐島』映画のメインキャストと同じでやってくれたら文脈的にも面白い。拓人は神木隆之介、瑞月は橋本愛、光太郎は落合モトキ(パーマ)・・・あと2年もして彼らが相応の年になれば十分いけそうじゃないか?  あ、隆良と理香は関連ないけど染谷将太と二階堂ふみで。

  ***

 そしてもう一つの大きな魅力は、本作での若者の描写です。
 本作のメインキャラクターは、主人公の二ノ宮拓人、その同居人の光太郎、彼ら二人の友達であり光太郎の元カノの瑞月、そして理香と隆吉のカップル、の五人。皆大学生で、物語では各々の就活模様が描かれるわけですが。
 彼ら彼女らの日本の大学生としての、20代はじめ頃の人間としての言動や価値観の描き方が素晴らしく真に迫っていて、同世代の人間として読んでて「そうそう!」って滅茶苦茶面白いんですね。

「一番手っ取り早くカラオケで百点を取る方法、知ってる?」
 隆良の声がワントーン上がる。
「北島三郎の【与作】をビブラートもなしでストレートに歌う。これが、最も百点を取りやすい方法らしいんだよ」
「北島三郎先生ナメんなっ」勝手にヴォーカル魂を燃やしだしてしまった光太郎を、全員で無視する。


 「ああ、こういう事言っちゃうよなー!」とか「だよなー、裏ではそう思うよなあ」とか、もう共感しきりで。
 中高年の作家ではどう頑張っても書けないであろう、同じ若い世代ならではの若者の描写が際立っています。ただしそれは著者が単に「若者だから」書けたわけではなく、その自他の若者らしさを見極め的確に表現し得る作家としての普遍的な感性と筆力あってこそのものだ、と付け加えておきます。
 いやそれにしても、人物の虚勢とかイラっくる感じの描写が本当秀逸だったなあ。数年前まで放送していたお笑い番組「レッドシアター」で、フルポン村上と柳原加奈子が海外経験やサブカル趣味をミサワ的に語り合う、という大変ウザく秀逸なコントがあったんですが、本作の隆良と梨香にはまさにそれを思い出しましたねー。

 さてそんな風に若者として非常にリアルに描かれている登場人物達ですが、一方で「就活」というテーマを分かり易く見せるために、適度にカテゴライズ・記号化されてもいます。
 拓人は劇中でも評されているように「観察者」で、周りを俯瞰的に見回して物語の展開に意味づけをしていく主人公兼狂言廻し、光太郎は陽気なムードメーカーで直感的に就活に当たっていくタイプ、瑞月は思慮深く真面目に就活を進め、物語のヒロインでもあり。理香は瑞月と似ているけれどより真面目で留学経験等の自分のアドバンテージを鼻にかけた所謂「意識高い系」、そして隆良は一見就活からは距離を置いて文学・芸術系の分野で自分の価値を見出そうとしている、理香とはまた別の意識高い系。
 彼らそれぞれが就活に臨む様を拓人の観察者的視点で描いていくことで、就活の現状が多角度から浮かび上がってくる構成になっています。

   ***

 さらに、『何者』がSNS(ソーシャルネットワークサービス)描写において画期的な作品であるということ。
 本作では特にtwitterを登場人物達が日常的に利用していて、また就活にもそれを役立てており(ソー活ってやつですね)、リアルで進行する物語とともに各人のソーシャルメディア上での呟きも描かれていきます。その描写が、まあとにかく一twitterユーザーとしてくすぐったいやら耳が痛いやらw 自分のなんてことない行動を誇張して書き込んだり(例えばアルバイトを仕事と言い換える)、たいして盛り上がってない飲み会の画像をすごく楽しそうにUPしたり、直接は平和的に接している人物のことをtwitterではこき下ろしたり・・・この「twitterあるある」の生々しさ・痛々しさだけでも5億点(@宇多丸)!
 
 つまりこのtwitterというガジェットにまつわる描写も、人間の対外イメージと内面についてのテーマを浮かび上がらせるものであり、就活の枠内だけでない現代社会の物語としての普遍性を補強していると言えます。

   ***

 しかしそうやって痛し恥ずかし程度なら良いものの、話が進むつれ事態はシャレにならなくなっていきます。

 新春を過ぎて新学期になっても主人公の拓人の就活は結果が出ずに行き詰っていき、当初オモテとウラで(薄氷のようであるものの)分別がついていたグループ内の齟齬・不和もだんだん綻びが生まれてくる。
 そして終盤にいたって、ついに決定的な破綻が生じます。ある人物がある人物に対してずっと溜め込んでいた思いの丈をぶちまけるのです。それは、就活の意義についてであったり、人生の岐路についてであったり、人の視点の狭さであったり。
 そこが物語のクライマックスで、ある種清々しいカタルシスがあり、それで完結しても全然問題ないのですが、、この作品が凄いのは、その後にもう一つのクライマックスを用意していること。そこでは、彼らのさらに裏の裏というか、また別の二人が抱えてきた本当に嫌な暗い人間性が洗いざらい曝け出されることになります。
 この2段構えの構成には、おおっと感心しましたね。その二つ目のクライマックスこそが、作者が一番力を入れた箇所だったそうで。

「最後の三〇ページは、本当に、自分が一番知られたくない感情をすべて書きました。だけど、ここを書いているとき、作家になってほんとうによかったと思えたんです。」(インタビューより)

   ***

 まあ一通り読んでみて、色々ため息出ちゃいましたね。
 就活にしても、SNSにしても・・・つまりところ今の時代のこの社会で、本物か偽者か以前に“何者”ですらない僕たち。この社会・世代に蔓延している、神経症寸前の実存不安は一体なんなのだろう。自分への自信とか、将来への純粋な希望とか、そういうものは一体いつ誰に刈り取られてしまったんだろう・・・と。
 

 以下、作中で特に心に強く響いた科白を二つ。

 「思ったことを残したいなら、ノートにでも書けばいいのに、それじゃ足りないんだよね。自分の名前じゃ、自分の文字じゃ、ダメなんだよね。自分じゃない誰かになれる場所がないと、もうどこにも立っていられないんだよね」

 「十点でも二十点でもいいから、自分の中から出しなよ。自分の中から出さないと、点数さえつかないんだから。百点になるまで何かを煮詰めて表現したって、あなたのことをあなたと同じように見ている人はもういないんだって。」

 まあ、どっちも最後のクライマックスでの科白なんですが。
 この言葉達は、本当に響きましたねー。

   *** 

 前述の二つのクライマックスを経て、物語はハッピー・エンドともバッド・エンドともつかない、何はともあれライフ・ゴーズ・オンというか、これからも拓人は「就活」で苦しみ続けるであろうということの示唆とともに幕を下ろします。
 そんな終わり方の塩梅は、人生のひとときを描いた作品としてこのうえなくリアルだと感じました。

 そしてこの物語が、マクロスケールな社会批判ではなくあくまでも五人の若者達の物語に終始したという点でも、その誠実さを称賛したいです。
 就活を含めた社会の現状は確かにいびつで狂っていて、辛く苦しい。もちろんこうした現状の批判は批判として為されるべき、誰かが、いや皆一人ひとりが問題意識をもって、メスを入れて改善していかなければならない。
 しかしそれにかこつけて、自分の進路のことを社会問題に摩り替えたって何も始まらない。
 「いま社会はこんな風だけど、それでお前はどうすんの? どう関わっていくの?」という問いかけは変わらずそこにある。勿論、そういう社会自体からドロップアウトする選択や「そもそも社会はそんな風ではない」という異議も込みで。

 いや、そう、大事なのはむしろ最後のその異議なんですよ。

 本作『何者』の物語が、描写が、いかにリアルで共感できるものであろうとも、これはあくまで「著者の視点で社会の一端をカリカチュアして描いたエンタテインメント」なのだという点は忘れないでおきたい。
 一応は就活中の身として、読んだ人に「これが就活だ! 社会全ての真実だ!」なんて思ってもらっちゃ困るわけです。それこそまさに劇中で批判されていた「ほんの少しの言葉の向こうにいる人間そのものが想像できない」ことに他ならない。twitterの140文字だけでその本人の価値を決めてつけてはいけないように、この小説の何万文字だけで現実の就活や社会を分かった気になるのもとんでもない間違いだ。両者が全く別物だと言っているわけではなく。
 想像力は大事ですね、ホント。

 まあ、だからこそ自分の体験と照らし合わせて色々言いたくなるわけで・・・ていうか、本作が狙ってるのはまさにこれだよね。
 ある程度分かり易くカテゴライズされた状況とキャラクター達の物語を描いて、読者一人一人の体験に訴えかけて、その個人の内面を吐き出させる、っていう。
 うーん、上手いなあ。構造として憎たらしいほどキマってる。

 
 こうして色々思うところはあるにせよ、同世代の作者が自分達ならでは時代感覚や人間関係、自意識のジレンマをほとんど捨て身で書いた作品として、限りなく高く評価したいですね。

 
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ジャンル:小説・文学

tag:朝井リョウ 何者

Comment

成程~ わかりやすい! 自分の中にある朝井リョウ像と合致する書評でした

要はこの人、「現在」の空気を俯瞰して観察できる位置に居続けた人なんですよね
王様のブランチに出てきた時、大学の中心でリア充サイコーを叫ぶ王様みたいな生活している光景を見て、
「こういうところから世界を観察して小説書く人って意外と少ないかも」と思ったのを覚えてます

たぶん、僕は大学にも行ってないしで根本的にこういう人のポジショニングそのものに
「ちくしょう、俺だってお前みたいな人生送ってれば」ってルサンチマンが沸いてきそうで.
実際『桐島』に感じたやだ味にも通じますが、その視点を獲得できてることがすでにムカつく、みたいなw
色んなことを肌で見て聴いて感じてきたんだろうな~と.

だからまぁ、読めば色々と勉強になるんだろうなと.

1度、100%想像でフィクションを書いてボロクソに叩かれてみて欲しい
そしたら余裕を持って朝井作品を読めるのにw

やっぱまずは『桐島』からですかね.

>ヒノキオさん

コメントありがとうございます。
ちょっと返信おくれてしまいました。

> 要はこの人、「現在」の空気を俯瞰して観察できる位置に居続けた人なんですよね
ああなるほど、的確な表現ですね。ポジション的には絶対リア充なんですけど、そこで正気を保っているというか・・・
まあ誰だって憧れますよねw

> 1度、100%想像でフィクションを書いてボロクソに叩かれてみて欲しい
たしかに、全くの空想の作品ってないかもしれませんね。この人が書くファンタジーとか読んでみたい・・・

結局、何だかんだいってもこれからも新作が出たら絶対読むと思うんですよね。
あの世代ならではの時代感覚は、ずっと追いかけていきたいです。

> やっぱまずは『桐島』からですかね.
『桐島』は短編連作なので、形式的にも『何者』よりは読みやすいと思います。
映画では結構変えられてるところも多いです。
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