FC2ブログ

Hello,World! - 『ベイビー・ドライバー』

2017.10.02 21:37|映画感想
 やっと近所の映画館で配給開始されて、鑑賞することができました。
 新生エドガー・ライト監督といった感じの抜けの良さ。かつ堂に入ったド傑作。
 大満足です。

 以下、もうちょい感想。
 
 
   ***

 高度に発達したパロディはオリジナルと区別がつかない――。
 エドガー・ライト監督は、今まで手がけてきた映画作品では、いずれも先行ジャンル・作品群へのリスペクトを捧げそれらの巧みなコラージュにより作品自身をそのジャンルの新たなマスターピースへ昇華してみせる、という神業を常に成し遂げてきた。
 『ショーン・オブ・ザ・デッド』('04)ではゾンビパニック、『ホット・ファズ』('07)ではポリスアクション、『スコット・ピルグリムVS邪悪な元カレ軍団』('10)ではゲーム・コミック的バトル、『ワールズ・エンド』('13)ではSFサスペンス。どれも各ジャンルの「らしさ」を突き詰めた結果、新たな境地へ一歩踏み出してきた。

 そしてフィルモグラフィを貫く縦軸として、オタク・ボンクラ・中毒者等の社会不適合者達へのまなざしがある。サイモン・ペグ&ニック・フロストと組んだブラッド&アイスクリーム三部作が特に代表的だが、作品の主人公達は常に社会との相容れなさを抱えており、作品の大筋が進む中でそれをどう解消していくのかが物語のキー。
 その命題は、初期作品ではわりと(表面的には)楽観的な結末に落ち着いてきた。『ショーン』では、問題にされていた主人公のゾンビのような退廃ぶりは、社会が本当にゾンビを受け入れてしまうことでそれが普通になる。『ホット・ファズ』では、有能すぎて都会で疎まれていた主人公は存分に活躍できる田舎のフィールドを手に入れる。
 けれど、『ショーン』の結末では問題は実際のところ何一つ解決されていないし、『ホット・ファズ』でも、主人公が打倒した敵と同じ地方の支配者的ポジションを継承してしまったともとれる。主人公の自己実現をハッピーエンド的に見せる一方で、第三者的ツッコミどころをさりげなくも確かに残しておく、というバランス。

 そんな、自らも筋金入りのオタク・ボンクラであるライト監督の「俺達」への肯定と批評性が7:3くらいだった最初の頃を経て、後の『スコット』や『ワールズ』では後者の厳しさが比率を高めてくる。
 『スコット』では、自分をヒロインを勝ち取る彼女の過去・他者性も自分で受け入れなければならいというテーマがあるし、『ワールズ』では物語的に「モラトリアムの終わり」=「老い」を見据え、ラストで主人公は勝利するが世界は滅ぶ。
 ただ自分の性分を周りと自分自身で肯定して終わり、ではなく、そこからどう折り合いをつけるのか。そうしたシビアな問いかけが近年のライト監督の作品では明確に表出してきていた。

 で、最新作の『ベイビー・ドライバー』。
 今回、主人公の身分はオタクやボンクラより決定的に社会の陰にある「犯罪者」。故に、社会との折り合いの付け方はよりいっそう切実なものとならざるをえない。ライト監督が、とうとうガチの領域にアクセルをベタ踏みしたのだ。
 主人公ベイビーは、超人的な自動車運転の才能で強盗の車役として働く。それで稼いだ金で借金を返済しようとするが裏社会と縁は切れず、ヒロインと逃げようとするもその手段には車を使うしかない。けれどその運転の冴えも、他者を傷つける自分の行いに迷いを覚えてからは完璧なものではなくなってしまう。
 「車」を象徴として、ベイビーは自分の宿業と求めるものの間で雁字搦めになっている。だからこそ彼が本気でそこから脱出しようと決意した時の逃走手段は、車ではなく文字通りの「自分自身」。
 彼はラストで自分以外の全てを手放し、裁きを受ける。そして、何もかもを失ったからこそ、最後の最後には・・・という結末。
 まさしく“ベイビー”として、彼はもう一度世界に生まれ直す。

 ストーリーの最終的な落し所としては、ライト監督の歴代作品の中でもむしろトップクラスにハッピーエンドかもしれない。けれど、そこに辿りつくまでにが主人公が払った代償の厳しさもまた過去最高。
 無条件に主人公を社会に認めさせるところからは脱却して、けれどただ険しく辛いだけの「いわゆるリアル」を主人公に叩きつけるのでもなく、そこを乗り越えた先のより確かな幸せこそを描くに至った。そういう意味での、エドガー・ライト監督の新境地であり王道回帰。
 
 そして、こうしたテーマ的観点を抜きにしても、単純に非常に楽しい映画だということも述べておきたい!
 ライト監督作品の魅力として小気味良いハイテンポな編集による音楽的なリズム感が挙げられるが、今作はそれがずば抜けている。
 ベイビーは事故の後遺症による慢性的耳鳴りを抱えており、それを解消するために常に耳にイヤホンを挿して様々な楽曲を流している。この設定により「主人公の気分=脳内音楽=劇伴」の図式が成立しており、終始彼の感情がそのまま劇中BGMとなって鳴り響く、広義でのミュージカル映画と化している。
 さらに劇中のSEや科白も楽曲に合わせてビートを刻むように編集されており、何も考えずそのリズムにただ乗っかっているだけでもめちゃくちゃ楽しいという、即物的魅力も備えた映画。シリアスなテーマの一方で、その味わいは非常に軽妙で爽やか。

 こうして、監督歴もベテランの域になって良くも悪くも「らしさ」の周回に入ってしまうのではなく、まだ見ぬ新しいルートへハンドルを切ったエドガー・ライト監督。次はどこへ連れていってくれるのか。そのドライブ、一生ついていきます!という気持ち。
 まだ公開している劇場もあるので、全人類残らず観に行け。



 蛇足:
 ちなみに、前述のライト監督作のテーマ「自分の個性、世界との向き合い方」はヒーロー作品とめっちゃ相性が良いはずで、ジャンルとしてもまだそこには手をつけてない(『スコット』で少しかすってるけど)わけで・・・、何が言いたいかというと、やっぱり彼の『アントマン』も観たかったよなって・・・。
 
関連記事
スポンサーサイト

Comment

非公開コメント

| 2018.12 |
-
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -
プロフィール

江楠

Author:江楠
 
東海在住。 

コメント・TB・リンク歓迎です。

・好きな映画・アニメ
ホット・ファズ、晩春、妖怪百物語、ゾイド、ハガレン、ガッチャマンクラウズ など

・好きな漫画・小説
夢幻紳士シリーズ、修羅の刻、京極堂シリーズ、THE END OF ARCADIA など

ブログパーツ

Twitter

カテゴリ

最新記事

月別アーカイブ

最新コメント

最新トラックバック

FC2カウンタ

ブロとも一覧


現象界が二次むブログ

リンク

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

検索フォーム

QRコード

QR

ページtopへ