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あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。

2012.01.15 02:05|作品単体感想
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 原作:超平和バスターズ
 監督:長井龍雪 脚本:岡田磨里 キャラクターデザイン/総作画監督:田中将賀
 音楽:REMEDIOS 音響監督:明田川仁 美術監督:福島孝喜
 アニメーション制作:A-1 Pictures
 

 ネタバレ注意!

 ファントムペイン/幻影痛・幻肢痛という言葉をご存じでしょうか。
 
  ***

・幻影痛・幻肢痛 Phantom Pain
 「幻影痛」とは医学用語で、身体の一部の切断後に、その切断した部位に痛みが出現する病態のことをいう。そして特に四肢を切断した後、全くの空白部分に強烈な痛みを感じる幻影痛を「幻肢痛」という。
 もうあるはずのない部位が、まるで今もそこにあるかのように、痛みを感じる。
 一説には、脳がその部位の消失を認識せずに、まだそこにあるものとして捉えていることと事実とのギャップから生じるという。
 参考:「Pain Relief ー痛みと鎮痛の基礎知識」➝http://www.shiga-med.ac.jp/~koyama/analgesia/pain-phantom.html#limb-pain" target="_blank" title="URL">URL

 
 さて、ここからは僕の全くの独論だが、幻影痛の及ぶ領域を「肉体」だけでなく「記憶」「思い出」にまで拡げたらどうなるだろうか? 
 当たり前に過ごしていた平穏な日常、当たり前のようにそこにいた大切なひと。自分の身体の一部のように、そこにあって当然な存在、環境。そういうものがある日あまりにも突然に消失してしまった時、僕等の脳は、心は、果たしてその事実をしっかり受け入れることができるだろうか。
 唐突な消失に対処できない僕等は、その存在がまだそこにあるように認識してしまうのではないだろうか。身体の幻影痛が痛みを生み出すように、記憶の幻影痛もまた、なくなった存在を想う哀しみ苦しみとしての痛みを生み出す。そして、それまで積み重ねられてきた記憶が、その存在の幻影を今もそこに在るかのようにかたちづくってしまうのではないか。
 つまり思い出のファントムペイン。
 それは一般には幻覚だったり、幽霊だったり。
 そしてそれがこの作品『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』なのだと思う。

 images1

 とある夏、とある少年を思い出のファントムペインが襲う。
 かつて失われた、当たり前にそこにいたはずの大切なあの子。その存在を、少年はずっと胸中で悼/痛んできた。その余りにも激しく鮮烈な痛みは、実在と寸分違わないまでの記憶の幻影を生み出す。
 少年は当惑する。そして苦しむ。 
 たとえ実体のない幻の痛覚であろうとも、この痛みは確かに存在するのだ。確かにはっきりと、痛いんだ。しかし、どうして今になって痛むのか。どうしたらこの痛みは消せるのか。
 少年は、共感を求める。同じようにあの大切な存在をその心身から切り落とされて、同じ傷痕を抱えているはずのかつての仲間たちに。
 しかし彼らもまた、彼ら各々だけの傷を抱えていて―――。


 この物語の主要登場人物は、十代半ばを少し過ぎた頃、ハイティーンの年代だ。
 時間は間断なく続いているはずが、ほんの10年前とは自分自身も周りの環境も人間関係も何もかもが変わってしまう。そして、人間15年以上も生きていれば、誰か人が死ぬということを自分から遠かれ近かれ一つくらいは経験しているだろう。
 そんな年代の彼らにとって、過去とは目を細めて懐かしみ慈しむような綺麗で温かいモノではない。
 そこには未熟で弱弱しく痛々しく振り返れば恥ずかしさ満載の自分がいて。でも同時に限りなく純真でもあった自分の眩しさが今の自分に影をつくり、いたたまれない。そして何より過ぎて間もない記憶は、生々しい実感をともなう。ふと回想すれば、あの頃の感情が、感覚が、鮮烈なフラッシュバックとなって襲いかかってくる。今/昔とすっぱり切り離すこともできない。
 古き良き時代だなんてとてもいえない、簡単には向き合えないおぞましい何かだ。
 記憶の幻影痛なんて詭弁を持ち出すまでもない。十代にとって過去を振り返るのはまさに「苦痛」なのだ。

 それでも本作の少年少女は、物語によって自らの過去と向き合わされる。彼らはいがみ合い、疑い合い、傷つけ合って、過去の傷痕を掘り下げていく。その度に彼らは苦しみ、悲しみ、涙する。
 一人の少年の抱える幻影痛を中心に、現在と近過去の境界は揺らぎ、溶け合って、一種異様な時空を作り出す。

 そしてそんな物語を観ている視聴者の僕等もまた、記憶の幻影痛に襲われる。90年代~00年代に幼少期を過ごした者にはたまらない小ネタ、キャラクターのリアルで魅力的な描写とシンクロして、自分達もまた己の過去を呼び覚まされ、痛みを感じる。
 登場人物の彼らと同等に、あるいはそれ以上に。

 物語のラスト、少年少女の抱える記憶の幻影痛が極限に達し、しかし同時に全員に共有されることで、痛みが作りだした幻影は希釈されて、消え去る。
 そして彼らは、やっと前を向いて、それぞれの時間を歩き出す。
 痛みは止まる。

 しかし。
 彼らの年齢を通り過ぎて間もない僕は、彼らがこれからもっと切なくやりきれない思いに直面することを知っている。
 なぜなら。
 記憶を思い返してより切ないのは、幼少期ではなく彼らにとっての“今”である十代半ば過ぎの時期だからだ。
 「あの子」を中心に幼少期を振り返ってじたばたしていたあの夏を振り返った時、大人になっておそらくはさらに立ち位置をバラバラにしているであろう彼ら超平和バスターズの面々は、一体どこで、誰のそばで、何を想うのか。
 その心情を想像するのは簡単だ。
 だってそれは、まさに今この作品を観た僕の気持ちに他ならないのだから。

 視聴者はキャラクター以上に痛みを感じると書いたのは、つまりそういうことだ。
 幼少期を振り返る十代半ばの彼ら(=自分)を振り返る。そこに生じるのは二重の記憶のファントムペインだ。
 僕は彼らにシンクロしつつも、彼らの未来を知る者として隔絶している。観ている時のあのいたたまれなさ、歯痒さ、切なさはしばらく忘れられそうにない。
 また、作中の彼らと同年齢かそれ以下の視聴者は、自分もいつかこうして過去を振り返る痛みが訪れることを予感し、未だ経験していないはずの痛みを味わうだろう。

 思い出の傷痕は、きっともう一度痛む。生きている限り何度でも。
 だがその痛みは、最初に想い返したあの時よりはほんの少しやわらいでいるだろう。痛みとともにあったはずの部位の幻を視ることもきっともう有り得ない。
 そうして、年を重ねる度に、あの頃あの時の喪失を何度も何度も思い返して、繰り返すごとに徐々に実感を薄れさせていって、いつかはきっと、綺麗さっぱり忘れてしまうだろう。俗に言う「時間が解決してくれる」とはまさにそういうことだ。そうしてひとは生きていて、生きていける。
 それが残酷なのか救済なのかは僕には分からない。
 いずれににしても、この物語にとってそれはまだ先のことだ。
 今は、その痛みを全身で味わって、身悶えていればいい。
 名前をまだ知らないというより、名づけるにはまだ早過ぎる思い出のあの花を、今はただ見つめていればいい。

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   ***

 いや~、心の奥にクる作品だったなあ。
 リアルタイムで第一話を観て、こりゃ凄い、良いと直感したものの同時に今の自分には危険過ぎるとも直感してスルーし、ラストのネタバレも知った上でDVDになってからちょっとずつぶつ切れで観てきて、やっとつい先日鑑賞終了しました。

 結局、観てる最中はそうした防御線をすっ飛ばして心をわし掴みにされてしまったわけですが。
 でも、何をそうまでして自分はこの作品を恐がって、距離を置こうとしたのか。おそらくは、自分の十代中頃の時期を簡単に外の作品とシンクロさせられてたまるかという、ひねくれた意地のようなものだったのかも。

 『三丁目の夕日』が完全に無視し、『オトナ帝国』でさえもが真剣勝負を避けていた(まあ視点のスケールからして仕方ないですが)、懐かしさだけじゃない、思い出を振り返る痛みの側面にとても誠実に向き合った作品だと思います。 

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テーマ:アニメ
ジャンル:アニメ・コミック

tag:あの花 長井龍雪 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。

Comment

二重の記憶のファントムペイン!

それだけでもうタイトルになりそうなフレーズですね
自分じゃ理屈をつけられない『あの花』の痛みが
少しわかった気がしました

よく考えると他にも心の琴線に触れてしまった青春モノでも
そうした幻肢痛に似た感情が働いてたのかなぁ

これ読んじゃうと数年後の『あの花』が見たくなりますね,

Re: ヒノキオさん

 こうして無理やりにでも理屈をつけないと、いつまでも引きずってしまいそうで、分析的な記事書いてしまいましたが・・・
 まあ結局、理屈で語るなんて野暮ってもんだなって分かりました。
 人それぞれ、それぞれの年代でぞれぞれの思い出を喚起して、自分だけの「あの花」を見つけられる、本当に良い作品だなと。

 『あの花』に限らず、青春モノというジャンルは皆、記憶の痛みを呼び起こす側面を備えているものなのでしょうね。
 その構造が本作ではフル活用されていて、はっきり見えやすいというだけで。

 数年後を描く続編・・・観てみたい気もしますが、正直もう勘弁してって気持ちの方が強いかもw

心の幻影痛…なるほどです。
鑑賞していた時、自然と手が胸を押さえていたんですけど、
そういう方、多いんじゃないかなぁ。
痛みがあるからこその今っていうのは本当に感じました。
あの花の名前は
きっといつか知ってしまうし
もしかしたら名づける事が出来るかもしれない。
でも…私はまだいいやって思っちゃう(/_;)

逃げたい気持ちと
見つめなきゃいけないような気持ち。
何だか最後まで心が忙しなくってどうしようもなく
愛おしい作品でした。

いつか感想書きたいんですけどね。
書きながら泣けるかもしれないっていう(笑)

以前、調べものしてたときに幻肢という言葉に出会いましたが、以外なところでまた耳にしたもんです。

幼少期の想い出をふと思い出すと懐かしい想いといっしょになんだかキリキリ切ない気持ちになりますよね・・・そこに今ないからからこそ尚更。
幻肢痛も同じで「ない」ことを意識してしまうと症状が強く出るそうです。

そして痛みの軽減法として、鏡や映像で失った四肢の虚像を生み出し脳に誤認識させるというものがあるらしいのですが、
これってまさに「めんま」の存在に当たるような気がします。過去の虚像としての「めんま」と仮初の「過去」が痛みを欺瞞したのではないかと。

結局、その幻肢痛の軽減法も応急処置にすぎず、「ない」ことを受容し「ない」状態で前向きに考えていくのが一番だそうです。
あの花の最後も全員が「めんま」と「過去」が失われたことを真に受け止め、別れを告げて未来へ向かってるんですよね。

こうしてみると、いろいろと考えさせられる作品だったんだなあと思います(。_。)

Re:かえるちょこさん

コメントありがとうございます。

> 鑑賞していた時、自然と手が胸を押さえていたんですけど、
> そういう方、多いんじゃないかなぁ。

いや本当、観てる間ずっと胸が苦しかったですよ。
あの年頃、いつも心細かったことを思い出してしまいました。

> あの花の名前は
> きっといつか知ってしまうし
> もしかしたら名づける事が出来るかもしれない。
> でも…私はまだいいやって思っちゃう(/_;)

思い出を全て受け入れて愛せるようになれば、そんなに素晴らしいことはないんでしょうけど、僕も今はとてもじゃないけど無理ですね。
だからなのか、基本的にノスタルジー系の作品は苦手です。

> 逃げたい気持ちと
> 見つめなきゃいけないような気持ち。
> 何だか最後まで心が忙しなくってどうしようもなく
> 愛おしい作品でした。

そう、視聴者に厳しいようで優しいようで、とにかく愛にあふれた作品でしたね。
僕はとにかく意図的に距離を置いて観たので、この作品に純粋に接する機会を永遠に逃してしまって、絶賛後悔中です・・・

> いつか感想書きたいんですけどね。
> 書きながら泣けるかもしれないっていう(笑)

かえるちょこさんの感想、いつか読めることを楽しみにしています。

Re: 現象也さん

> 以前、調べものしてたときに幻肢という言葉に出会いましたが、以外なところでまた耳にしたもんです。

まあ、あくまでこじつけなんですが・・・
でもかなり符号することも多かったので、考察してみました。

> 幼少期の想い出をふと思い出すと懐かしい想いといっしょになんだかキリキリ切ない気持ちになりますよね・・・そこに今ないからからこそ尚更。

年が若いほど、思い出は近くて鮮烈ですからね。それなのに「ない」っていう現実とのギャップはキツいものですよね。

> そして痛みの軽減法として、鏡や映像で失った四肢の虚像を生み出し脳に誤認識させるというものがあるらしいのですが、
> これってまさに「めんま」の存在に当たるような気がします。過去の虚像としての「めんま」と仮初の「過去」が痛みを欺瞞したのではないかと。

そう、僕も治療法の項目を読んであっと驚きました。
作中の彼ら彼女らは、知ってか知らずか幻影痛の治療を地でいってるんですよね。
元々幽霊や妖怪は、人が現実で解決できないことを非現実に求めたものだといいますし。

過去回想とは本来美化なんかできない辛く苦しいもので、そして人の死(喪失)とは「その時」も大変だけど、「その後」もさらに大変なのだという現実を丹念に描いた作品だったと思います。

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