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ONE PIECE 65巻

2012.02.04 00:03|
・百聞は一見に如かず
尾田栄一郎『ONE PIECE』65巻

 65表紙
 
 最新刊が発売されたので、買ってきました。
 連載時、この巻に収録されるある一幕に胸打たれたので、感想含めて記事にしました。

 ※内容ネタバレ注意


 なんかネット界隈ではやたらつまらんつまらんと言われる「魚人島編」だけど、個人的には全シリーズの中で一番面白かった。いや、厳密に言うなら、歴史学科所属の身として、この話に一番興味を惹かれた。

 簡単に魚人島編のあらすじをおさらいすると、
 2年の修業期間を経て再結集した麦わら海賊団は新世界の入り口・魚人島「リュウグウ王国」に到達。一見平和そうな王国には、かつて人間に差別・抑圧され、その復権のために二人の偉人が命を落とした痛ましい歴史があった。そして現在、人間への復讐心を燃やす新魚人海賊団が王国乗っ取りを企てる。狙われた王女のしらほし姫を守り、ルフィ達は戦闘を開始する・・・。 

 で、この65巻は麦わら海賊団VS新魚人海賊団のクライマックス。2年の修行の成果を発揮して、ルフィ達が敵を圧倒していく。
 こう書くとただのバトル漫画だけど、そんな単純な話ではない。


 新魚人海賊団のボス・ホーディは、今までの敵と比べると、何だか、はっきりいって弱い。
 早々にゾロにばっさりやられちゃったり、薬で力の底上げしてばっかりだったり。しかしやたらしぶとく、ことあるごとに人間への怨念を叫ぶ。終いには魚人島自体を崩壊させようとする。

 かつて魚人島の英雄だったフィッシャー・タイガーは過去に人間から奴隷扱いされて憎しみを抱えていた。魚人島の権利獲得に奔走した先代王妃・オトヒメは志半ばで謀殺されてしまった。しかしそれでも彼らは死の間際には共通して、後の世代に恨み憎しみを残してしまうことを必死に拒んでいた。

 王国王子のフカボシは、ホーディにやられながらも問う、お前をここまで復讐に走らせるほどの動機は何なんだと。一体人間から何をされたんだと。
 しかしホーディの答えは、

 「何も」

 ホーディ自身は人間から何の迫害も受けなかった。しかし人間への憎しみを燻らせる魚人街の環境、そしてタイガー・フィッシャーとオトヒメの死が、ホーディ達に人間への憎しみと差別意識を与えたのだという。 

 王子フカボシは慟哭する。
 我々は魚人島の表層だけで団結し下層の魚人街に怨念を蓄積させていた。そしてそれがホーディを生み出し、まさに今、魚人島を滅ぼそうとしているのだ、と。

 「麦わら・・・頼む!! 過去などいらない!!! ゼロにしてくれ!!! この島をタイヨウから遠ざける・・・亡霊を消してくれ!!! お前の手で!!! 魚人島をゼロに!!!」 

 このくだりを連載当時に読んで、感嘆した。
 この漫画、ガチンコで“歴史”を描こうとしているんだと。

   
 魚人島を世界政府に認めさせ人間と同等の権利を得るため、署名活動に奔走したオトヒメ王妃。奴隷扱いされる魚人・人魚を解放するために“タイヨウの海賊団”を率いて戦った英雄フィッシャー・タイガー。
 二人は志半ばで倒れ、理想は蹂躙された。それでも、彼らは死の間際まで負の連鎖を断ち切ることを願っていた。
 だからフィッシャー・タイガーは、人間に裏切られたこと、自分が人間への憎しみを抱えていたことを「伝えるな」と言い遺し。オトヒメは自分を殺したのが誰であれ、「子ども達に、怒りを、憎しみを植え付けないで」と言い残した。
 
 この、“後世に禍根を残したくない”という彼らのこころ。それこそ最も大切な、語り継がれ伝えられるべき意思だったのではないか。
 それを事件ごと闇に葬ってしまったのが、魚人島の最も大きな過ちだった。 

 その結果、いざ歴史の暗部に触れたホーディがあっという間に闇に同化した。
 そう、一個人では歴史をどうすることもできないが、歴史は一個人に容易く強く影響する。特に、何のリテラシーも持たない者には。ホーディもある意味で純粋無垢な子どもだったが故に、かかわらず伝聞の憎しみにここまで共感し、暴走することができてしまった。
 フィッシャー・タイガーが救った人間の女の子が「何も知らないから」魚人海賊団を「恐れた」ことの反転だ。

 どんなに辛い体験と意思の挫折を味わっても憎しみに呑まれまいとした者達と、体験も意思もないからこそ憎しみを無限に増殖させてしまった者。
 フィッシャー・タイガーの「伝えるな」という最後の言葉さえ伝えられていれば、ホーディの暴走は、あるいは。


 歴史を隠せばこころも隠れてしまう。
 私が歴史学科に3年ほど在籍して学んだことの一つは、自国の歴史を内省できない国は一つの例外もなく必ず滅んできた、という事実だ。

 差別に無知であれば差別などしないと人は言う。しかし、差別に無知であることこそ、本人の責任の有無にかかわらず、差別を隠蔽しようとする歪んだ社会の一員である証拠ではないのか。

 「無関心は罪」だ。自分の正当性を主張しようというのなら。
 「知らなかったから」で第三者の立場に留まっていたら、いざ被害者になった時に助けてくれる人はいないし、況や加害者になった時に弁解の余地はない。


 だから、フカボシの「ゼロにしてくれ」という叫びも、やはり間違っているのではないかと僕は思う。ゼロにできるわけはない、澱は必ず残る。どう足掻いても負の連鎖を断ち切れなかった結果として今の魚人島の動乱が起きているのだから。
 だがやはりフカボシはそう叫ばざるを得なかったのだ。フィッシャー・タイガーのように、オトヒメのように。こんな苦しみは、自分の代だけで終わりにしてくれと。
 
 最も賢人といえるのはマダム・シャーリーだろう。
 彼女は魚人島の子ども達に、この国の闇が引き起こした戦いをしっかりと見据えさせる。
 歴史を押し付けるためでも隠すためでもない、ただ曝け出し、彼らに考えさせるために。

 「(中略)とにかくその目でごらん!! ―――そうでなけりゃ・・・ ―――何を言う資格もないんだよ!! これから何が起こっても……!! まっすぐな目で見なきゃいけないよ!!」


 そしてルフィをはじめ麦わらの一味が戦う。
 彼らはいつだって歴史と戦ってきた。訪れる島、国の負の歴史をあぶり出し、全てを壊滅させてきた。
 アラバスタ編で王家の地下聖殿を崩壊させ、空島編で神を騙る独裁者を墜とし、ウォーターセブン編で世界政府の旗を燃やし、シャボンティ諸島編で世界貴族をぶん殴り、インペルダウン&マリンフォード編で海軍本部で大戦争を起こし。歴史、ひいては「歴史の最前面」としての海軍、世界政府を相手取ってきた。

 国よりも仲間を。過去よりも今を。命よりも絆を。ルフィは常にわけのわからない大きなものよりも今ここにある小さなものを選び取る。
 そしてルフィ率いる麦わらの一味の力が大きくなり旅が進むほどに、相手にする敵は、地方領主、王下七武海、神、世界政府直属組織、王侯貴族、海軍最高戦力とどんどん大きくなっていき、いずれはこの世界を築いてきた歴史そのものになるであろうことは十分予感されていた。
 事実、彼が目指す“ひとつなぎの財宝”ワンピースは、世界政府の隠す空白の百年に関わり、世界を引っ繰り返すものなのだといわれる。


 そうした「歴史との戦い」という『ONE PIECE』のテーマが露骨なほどに顕在化したのがこの「魚人島編」なのだと思う。 

 そして、空っぽの歴史を受け継いだホーディを、“火拳のエース”のこころを受け継いだルフィの“ゴムゴムの火拳銃”が打ち破る。これはとても綺麗で必然的な構成だった。


 戦闘の見せ方とか語り口に難ありな部分は重々承知しながらも、この「魚人島編」を僕は全身全霊で褒め称えよう。

 少年ジャンプ・・・ていうかこの国で一番人気の漫画が実は一番ポリティカルでヒストリカルだっていうのは、素晴らしいことじゃないか。



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テーマ:ONE PIECE
ジャンル:アニメ・コミック

tag:ワンピース ONEPIECE 尾田栄一郎 魚人島編

Comment

先ほど私も読み終えたばかりの気持ちを書いたところです。
参りました、というくらいちょっと疲れてます(笑)
>一個人では歴史をどうすることもできないが、歴史は一個人に容易く強く影響する
わぁ…なるほどです。今回の話で一番強く描かれていたのはここだろうな、と思いました。
マダム・シャーリー、彼女のとった行動もまた素晴らしかったですね。オトヒメの意思をある意味受け継いでの行動だと思います。
私もフカボシの「ゼロにしてくれ」という言葉には、出来るわけない…と思いました。
やはり完全に消し去ることなんてできないでしょう。
でも、だからこそ綺麗な目で見たあの子たちがいるんだろうな、と。
次巻以降、魚人島の新しい芽が生き生きとしていることを願ってます。

>かえるちょこさん

コメントありがとうございます。

> マダム・シャーリー、彼女のとった行動もまた素晴らしかったですね。オトヒメの意思をある意味受け継いでの行動だと思います。

あれがこの巻の白眉だと思いましたね。
歴史に無自覚であれば知らず知らずのうちに影響されるばかりだということは、現実の日本を見ても明らかですよね。

> 私もフカボシの「ゼロにしてくれ」という言葉には、出来るわけない…と思いました。

まあ、かなわない願いだからこそ、痛切に響いてくるものがあるんですよね。
誰だって辛いことはなくしたいんだし。
 
> 次巻以降、魚人島の新しい芽が生き生きとしていることを願ってます。

たぶん、魚人島は今後も何らかのかたちで描かれると思うので、どうなっていくかが見物です。

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江楠

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