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『夢幻紳士』三部作:幻想篇・逢魔篇・迷宮篇

2012.10.01 00:26|
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本ブログで何度かふれてきた『夢幻紳士』三部作について、軽くまとめ的な。
   ***

 漫画『夢幻紳士』シリーズをご存じでしょうか。
 稀代の幻想ホラー漫画家・高橋葉介のライフワークです。

 1981年の「マンガ少年」での連載を初として、以降「冒険活劇篇」「怪奇篇」「外伝篇」などと幾度もリニューアルを重ねながら続いてきました。

 シリーズ通しての主人公は〝夢幻紳士”こと夢幻魔実也。
 黒のスーツにマント、山高帽。女を惑わす美貌の持ち主。身体能力高し、超能力じみた力も。
 作品によって真面目だったり放蕩だったり、ヘビースモーカーだったり禁煙中だったり、少年だったり青年だったり。

 そう、篇毎に主人公のキャラクターは大きく変化し、物語形式も違っているのです。

 「マンガ少年版」「冒険活劇篇」では、魔実也はローティーンの魔少年。昭和初期の日本で、少年探偵として難事件・怪事件に派手なアクションで挑む。「冒険活劇篇」中盤以降では、海外にも舞台を広げて活躍。当時代のモダンな雰囲気を緻密に描き込まれる一方で、全体的に「スチャラカ」と呼ばれるナンセンス・ギャグ要素が散りばめられている。
 それが1984年以降の「怪奇篇」では、魔実也は青年として登場し、性格も冷静でミステリアスなものに変化。作風もタイトル通り怪奇・ホラーの要素がメインとなり、ぐっとシリアスに。
 1992年からの「夢幻外伝篇」は「怪奇篇」のテイストを受け継ぎ、魔未也は前作よりは少し人間臭さを戻して、しかしその超常的な能力はより強いものに。

   ***

 そして本記事でとりあげるのが、2004~2007年に「ミステリマガジン」で連載された「幻想篇」「逢魔篇」「迷宮篇」の三部作です。

 このシリーズでは、魔実也は「怪奇篇」からのまま青年の設定で、彼の「夢」をあやつる能力が全編を通じて重要なファクターになっています。三作とも、基本的には一話の中で起承転結がある短編連作の形式で、それがだんだんと一つの物語に収斂していくパターンです。 

 僕は「夢幻紳士」シリーズは全般にわたって好きなのですが、特にこの三部作の物語構成には痺れまくってしまい、こうして記事にした次第です。

 ではまず一作ずつ語っていきましょう。


・『夢幻紳士 幻想篇』

 時は、昭和初期日本。
 〝僕”は、精神を病んで病院に収容されていた。両親の遺産を狙う叔父が、〝僕”の頭の中に電波受信機を埋め込んで思考を狂わせているのだ―――と〝僕”は述懐する。自らの視ている幻覚の人物に向けて。
 しかしその幻覚に過ぎないはずの〝彼”がひとりでに動き出し、〝僕”から受信機を抜き取って狂気から救い出してみせた。
 〝彼”こそは、黒衣に山高帽の美青年〝夢幻紳士”。

 それから、退院した〝僕”には何故だか次々と不可解な事件が襲いかかり、未だ精神が不安定な〝僕”は夢と現実の境に迷い込む。その度に、幻覚の〝彼”は事件の謎を解き明かし不思議な力で僕を助けてくれるのだった・・・。

 あらすじとしてはこんなところ。
 毎回、〝僕”が怪事件に見舞われて夢幻紳士/魔未也がそれを解決するという一話完結形式で話が進みます。

 僕が初めて読んだ『夢幻紳士』作品でもあり、この三部作の中でも特に思い出深い一作です。

 まず、これは『夢幻紳士』シリーズ全作にいえることですが、流れるような毛筆タッチの描線でかたどられる人物と、緻密に描き込まれた昭和初期日本の風景とのコントラストが素晴らしい。そしてキャラのちょっとした言い回しや小道具にも当時の日本の独特の雰囲気が感じられて。
 そこで夢とも現実ともつかぬ摩訶不思議な物語が展開されるものだから、心はあっという間に異世界へと連れていかれます。
 そしてこの「幻想篇」は各話のタイトルが「Shall We Dance?」「暗くなるまで待って」「父、帰る」「長いお別れ」のように、過去の映画や小説をモチーフにしており、元ネタとエピソードの関連に気をつけて読んでも面白いです。 

 「幻想」「逢魔」「迷宮」三部作は、『夢幻紳士』シリーズの中でも魔実也の性格が比較的マイルドなものとなっているのですが、この「幻想篇」の魔実也はさらに優しく献身的なキャラクターとして存在しています。
 そもそも、一応は実在キャラであるはずの魔実也が、なぜ〝僕”の脳内人格となっているのか? そして、〝僕”は何故毎度危険な目に遭うのか?
 
 これらの謎が話を重ねる毎に強調され、次第に一話完結だったはずのエピソード群が一つの流れとしてまとめられていきます。そしてラスト二話で、この「幻想篇」が怪異譚・ミステリである前にひとつの恋物語だったのだという、何ともロマンチックな結末を迎えます。
 この物語の昇華の仕方に、初読時は思わずため息が出ました。

 「〝お姫様 私を必要とする時は” 
  〝あなたはただ私を想うだけで良い” 
  〝地の果てからでも参じます” 
  これが彼からの伝言です」


 とにかく、最後まで読むと魔実也が格好いいの何の。


・『夢幻紳士 逢魔篇』

 前作「幻想篇」のラストシーン直後から始まります。

 ある場所で、ある人物と言葉を交わした夢幻紳士。
 それを幽霊や妖怪、異能者、数多のこの世ならぬ者共が見ていた。そこを発端として、物語が始まります。

 「幻想篇」では〝僕”とともにあちこちを移動していた夢幻紳士ですが、今作ではほとんど場所を動きません。
 魔実也はある場末の料亭に居座り、そこへ妖怪やら幽霊やらが彼に惹かれて集まってくるのです。毎回、彼が座敷部屋でそいつらを迎え入れて手玉に取る様が描かれます。

 今作では、相変わらず昭和初期日本の情景描写が素晴らしい中で、舞台が料亭ということもあり、作品全体に「和」の魅力が強いです。魔実也の口調はどこか江戸っ子ぽくなり、他のメインキャラの女将や芸者との会話に粋な妙味があふれています。
 また、『夢幻紳士』シリーズには西洋の化け物が登場することが多いのですが、今作はほとんど日本の妖怪や怨霊に絞られています。それも、「牛鬼」や「件(くだん)」などのメジャーな妖怪から「水虎」「酒蟲」などのマイナーなものまで、妖怪ファン的に「あ~それ出すか!」と絶妙な選択。
 さらに、取り上げる妖怪に時折高橋独自のアレンジを加えていたりして最高。

 ちなみに前作では優しかった魔実也ですが、今作では妖怪・幽霊相手にはかなり容赦のない冷酷な一面もみせています。

 そして前述したように、今作は一貫して料亭の一部屋が舞台で、話が変わっても時間はずっと連続している、ほんの一日の出来事です。
 しかしそれが日中なのか夜中なのかが判別できないような描かれ方で、延々と妖怪・幽霊の相手が続くために、実際作中ではどれくらいの時間が経っているのか、読んでいる方も分からなくなってきます。さらに終盤では、実はこれはある人物の一時の夢かもしれない、ということが示唆されます。
 この幻惑感こそが、「夢幻紳士」の真骨頂といえるでしょう。

 第三話からは、魔実也を狙ってやってきた者共の一人だった「手の目」という少女が、毎話のレギュラーキャラに加わります。
 手の目は、最初は単なる標的だった魔実也と関わるうちに、彼に自分の過去を打ち明けたり貸し借りを作ったりして、いつの間にか彼との時間をかけがえのないものとして感じるようになります。
 今作は「幻想篇」ほどには毎話ごとのエピソードの繋がりは無い代わりに、手の目の感情の揺れ動きを補助線として、やはり最終的には一つの物語へと結実します。各話に出てきた化け物達が一斉に空を往く「百鬼夜行」の様子が、まさにエピソードの収束を象徴しています。

 今作の終わり方も、「幻想篇」とはまた違った切なさがあり・・・。

 「分かってるさ 夢から醒めなきゃ
  次の夢は視られねえってことくらい」
 

 さらに、最後には「幻想篇」のあのキャラクターも・・・。
 実は、「逢魔篇」は「幻想篇」の続編でありながら、実は時間軸としては「幻想篇」の中に収まっている(かもしれない)という、かなり複雑な話でもあります。
 

・『夢幻紳士 迷宮篇』

 三部作の最後、「迷宮篇」。
 タイトル通り、迷宮を冒険するような錯綜した物語です。

 今作では、魔実也はずっと何者かに狙われています。
 第一話の彼を突き落とそうする女に始まり、毎回誰かしらが魔実也を殺そうと迫ってきます。しかも彼らは見かけは自分の意思で魔実也を殺そうとするのですが、その連なりが、まるで彼への殺意が人から人へと伝染していっているかのように描かれます。

 一体、誰が、何故、彼を狙うのか?
 最初は何もヒントを与えられないままで、魔実也は殺意の渦という名の迷宮に囚われることになります。

 幻想篇が各話のタイトルに映画や小説を引用していたように、今作では「叫び」「死の接吻」「波の中の恋人たち」など、画家・ムンクの絵画作品を各話タイトルと扉絵につかい、話の内容も作品テーマに即したものになっています。高橋流のムンク作品解釈として読んでも面白いものがあります。

 また、絵の描き方にも変化が生じてきて、流麗な描線と白黒の対比の妙は健在ながら、今作では墨絵風のぼかし表現が夢のシーンで多用され、夢と現実のコントラストを演出するのに一役買っています。 

 そして話が進むにつれて「幻想篇」や「逢魔篇」のキャラクターも再登場してストーリーに関わってきて、いよいよ本作が「幻想篇」からの連続した一つの物語であることが露わになってきます。


 つまりは、この三部作は「夢」「少女」「名前」の三つを柱としたお話だといえるのではないか。

 魔実也は「夢」をあやつることで、相手に幻覚を見せたり、自らへの危機を回避したり、時として過去・現在・未来の時系列さえも「夢」に取り込んで自由自在に操作することができます。 
 これは一キャラクターの能力ではなく、作品全体の特徴でもあります。「夢幻紳士」三部作は常に夢と現実との境界が曖昧で、ただの回想が現実に影響を及ぼしたり、誰かの夢がまた別の誰かの夢、あるいは現実と地続きになっていたりと、現実に依拠した理屈で捉えることはできない作品になっています。
 そして、「夢」は誰のためにあるのか? 
 それは「少女」です。

 「幻想篇」も、「逢魔篇」も、「迷宮篇」も、それぞれにもう一人の主人公として「少女」がレギュラーで登場します。
 彼女達は、キャラクターとしては天然だったり生意気だったりとバラバラですが、皆辛い過去をもって苦しい現状に置かれています。それは性的虐待、父からの家庭内暴力、男との争いの末の昏睡状態などと、つまりは「男」によるものです。
 そうして男からの支配や抑圧に苦しめられている「少女」達は、夢幻紳士/魔実也に出会う。魔実也は少女達には(時折ぶっきらぼうながらも)紳士的に接し、彼女達に「夢」をみせます。その現実と虚構の入り混じった世界で少女達は自らの心を解放し、過去のトラウマや今の窮状から脱していきます。さらに彼女達は皆往々にして魔実也に恋をして、それまでの自らを支配・抑圧するものだった男性像を更新します。
 
 迷宮篇のラストでは、各作品の少女が一堂に介して、彼女達を蹂躙しようとする「男性」を魔実也が退治する―――という「夢」を皆で体験します。これは非常に象徴的なシーンで、つまり夢幻魔実也とは、少女が男性への恐怖や嫌悪から脱して大人の女性へと成熟する通過儀礼のメタファーであるといえます。また、一方で自分がたとえ老婆になっても少女の心に戻してくれる存在でもあり。
 いずれにしても、この「夢幻紳士」三部作は、少女が魔実也に救われ成長する物語をひたすら描いたものなのだと思います。
 (*この考察は、別のアニメ感想記事で『LUPIN the Third 峰不二子という女』についての通りすがり。さんとのコメントのやりとりがヒントになりました)

 そして、少女達がステップアップしたことを各作品で明確に示すのが、「夢幻紳士に名前を聞く」という行為です。いずれの作品も、ラストはレギュラーの少女が夢幻紳士に彼の名前を聞いて教えてもらう、というシーンで終幕を迎えます。

 「君 名前を 名前を聞かせて下さい
  ぜひ知りたい
  お願いです」


 「ねえ若旦那 最後にお願いだ
  あっしにもちゃんと名乗っておくれよ
  顔をこっちに向けて あっしに名乗りを上げてくれ」


 「だから 最後に聞かせてちょうだい
  あなたの名前を聞かせてよ」


 そして夢幻紳士は、一様に答えます。
 
 「僕の名は 夢幻です
  夢幻魔実也というのですよ」
 

 つまり、魔実也の夢によって救われ、男性の支配から解き放たれた少女が、女性として魔実也を意識して彼の存在をより正確に捉えようとするに至った時、物語が役目を果たし終わる瞬間が、「彼の名前を聞く」シーンなのです。

 また同時に「逢魔篇」が彼の名乗りから始まったように、夢幻紳士が名を教えるという事態は、新たな物語の始まりでもあります。これは、高橋葉介氏が「自らの名を名乗ること」を特別な「言霊」として捉えていることの表れでもあるのでしょう。この辺は、もうちょい考察し甲斐がありそう・・・。


 というわけで、絶妙なファンタジック表現と一貫したテーマ性、類稀なる物語構成を備えた「夢幻紳士」シリーズ「幻想篇」「逢魔篇」「迷宮篇」三部作、非常におススメです。



 追記:「逢魔篇」の「手の目」が主人公をつとめる『もののけ草子』シリーズもおススメ。
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テーマ:漫画の感想
ジャンル:アニメ・コミック

tag:高橋葉介 夢幻紳士

Comment

いい感じの絵柄ですね~

まったく知らなかったのですが、古本屋で探してみようかな
今までも目にしていた筈なのに完全スルーしていたマンガや小説が
最近ようやく意識に留まり始めました,

こう、本棚を分け入って奥に進む感覚がたまらないですね、
こういう絵の表紙の本を見つけちゃうとよりグッときそう.

子供の頃大体読んだ気になってた「マンガ」というジャンルの
幅広さにもようやく気付いて、最近しばしば茫然としてますw

>ヒノキオさん

コメントありがとうございます。

> いい感じの絵柄ですね~

この絵柄にハマれたのなら、本編はもう宝石箱ですよ。
一コマもクオリティを落とすことなくこの絵が続いていて、その佇まいを眺めてるだけでも満足しちゃいますから。

この三部作は装丁が大きいので、古本屋だとたぶんワイドコミックの棚じゃないですかね。

> こういう絵の表紙の本を見つけちゃうとよりグッときそう.

そうですね、本屋で有象無象の中から自分好みの表紙を見つけた時は、何ともいえない喜びがありますね。
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