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ストレンヂア

2012.05.15 23:39|映画感想
・異邦人の國
『ストレンヂア ―無皇刃譚―』

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 2007.松竹
 監督/画コンテ/演出:安藤真裕
 脚本:高山文彦 音楽:佐藤直紀
 キャスト:長瀬智也、知念侑李、山寺宏一ほか
 原作/アニメーション制作:BONES


 制作会社BONES(骨)の名に相応しく、まさに武骨、かつ洗練された傑作アクション時代劇。
 しかし鑑賞後にはどこか空虚な想いが胸に沁みる。
 
   ***


 冒頭―――
 日本、戦乱の世。武将は力と栄誉を求め、民衆は貧窮に喘ぎ、そうした渇望が果てなき殺戮の嵐を呼ぶ、そんな時代。
 異装の一団が険しい谷間を往く。
 武者崩れの野盗どもが金品を狙って奇襲を仕掛ける―――が、一団から飛び出した一人の男によってそれは阻まれる。剣戟、瞬断、血飛沫。彼らは刹那のうちに惨殺死体の山と化す。

 そしてタイトルが出る。
 
 『ストレンヂア ―無皇刃譚―』 

 そのおよそ5分で、これがどういう映画なのかは十分過ぎるほどに説明されている。

 この映画のアクションシーンがいかに最高であるかについては、「とにかく観て!」と言うしかないので、ここでは本作をタイトル通り「ストレンヂア」という切り口で考えてみたいと思う。


 stranger(ストレンヂア)[名]:①見知らぬ人、よそから来た人、外国人 ②(場所)に不案内な人 ③無経験な人 ・・・
 (ジーニアス英和辞典より)


 この映画の場合、①の外国人、よそ者といった意味の「ストレンヂア」が一番当てはまるだろう。

 この映画の主要登場人物は、ほとんどがストレンヂアだ。
 まず主人公の“名無し”は、異国の難破船から拾われた赤髪の(普段は塗料で黒髪に染めている)外国人。かつては武将に仕える侍だったのだが、ある一件に堪え切れず身分を捨てた。
 完全な異邦人にも日本人にもなりきれず、その狭間を彷徨っている。さらに彼は最初、日本人の浪人として登場する。出自が異国であることを明かされるのは物語中盤だ。観客側からしても、名無しのアイデンティティが変動している。

 名無しと旅をともにすることになる物語のキーパーソン・仔太郎は、日本人ではあるが幼少期を明の国で過ごして、それから日本にやってきた。帰国子女という意味では、ストレンヂアとみることもできるだろう。仔太郎は羅狼たち武装集団と赤池勢力の両方から追われ、頼りの寺からは裏切られ、常に個としてのアイデンティティを否定されている。

 仔太郎を狙う明国の権威者、その配下の武装集団のNo.1・羅狼。彼は日本とは縁もゆかりもない完全なる外国人だ。しかも、明国サイドの中でも白人の血を宿した金髪碧眼の容姿で浮いており、さらなるストレンヂアとして存在している。また、ただ強敵を求める自分と徹底した主従・目的遂行を強いる自らの所属との間にギャップを感じている。

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 このように、彼らのストレンヂア(外国人、よそ者)としての在り方はまたそれぞれ違っており、そのアイデンティティの不確かさに彼らは皆苦しんでいる。内面的には揺るぎない羅狼ですら、組織と自分との求めるものの違いという外圧的フラストレーションに否応なく曝されている。


 対して、「日本人としての登場人物」達は、非常に「日本的」であり、固定的な人物像として描かれている。

 明国使者の野望に協力する赤池の国。
 赤池城領主は異邦人達に力を貸しつつも、隙あらば成果を横どりしようと狙っている。そしてその配下の武将・虎杖も、さらなる権威を欲して上を目指す。そのまた配下の若侍は、まだ侍としては未熟ながらも、赤池の姫に恋心を抱いている・・・。
 彼らは異邦人達と同じく心情豊かに描かれる。が、それは自らの定義を揺るがされたりするのではなく、むしろ絶対にブレない自我を軸に、彼らは行動し物語に加わる。虎杖がまさにその象徴だ。彼は典型的な下剋上の戦乱期の武者だ。
 そして本作での侍の精神性や武器・戦闘描写など、時代考証の徹底ぶりには目を瞠るものがある。終盤の下剋上からの攻城戦の描写など、黒澤時代劇のアニメ版と言っていい。このリアリティとエモーションで以て、日本人達の人物像の定型さをカバーしているのだ。
 自由に多様に描かれる異邦人達と、リアルに固定的に描かれる日本人達。彼らの境界はあいまいなようでわりとはっきり区別されている。そんな両者の存在する「日本」が本作では描かれている。

 そして観た人は気づいていると思うが、名無し、羅狼、虎杖、この三人(ストレンヂア二人と日本人一人)が一堂に会することはない。
 名無しと羅狼、名無しと虎杖、羅狼と虎杖・・・それぞれのキャラクターは他の二人と一対一で会ってはいるが、三人が同じフレームに収まっているシーンは最後まで存在しない。さらに厳密にいえば、名無しが虎杖と会っているのは、彼の侍時代の過去回想の中でのみだ(※追記2)。
 クライマックス、虎杖率いる軍団が羅狼たち明国の拠点に急襲を仕掛ける。羅狼は虎杖と戦い勝利し、その直後に名無しが駆けつける。名無しはついに現在の虎杖と再会することはなかった。
 この、タイミングのズレ。
 そして、本作の映像的・物語的頂点である名無しと羅狼の超絶戦闘シーンが存分に描かれ、羅狼の死をもって物語に幕が引かれる。

 この日本人とストレンヂアの差異描写と物語の結末が意味する者は何か。
 つまりこれは「日本」の物語ではないということだ。
 あくまでも名無しと羅狼ふたりのストレンヂアのぶつかり合いにフォーカスをしぼった作品なのだ。物語の視点はストレンヂア達にあり、日本は彼らにとっての「異郷」として存在している。だから日本人のキャラクターは背景として定型的であり、虎杖は結局羅狼に斬り伏せられ、名無しに再会することもなく、最後の最後で物語から排除される。

 そして、名無しと羅狼の勝敗を分けたもの。
 それは表面的には仔太郎が名無しに託した「宝物」なのだが、私はその要因はもっと別のところにあると思う。
 名無しはかつて虎杖と共にある武将のもとに仕えており、そして集団内での下剋上の果てに、親しくしていた武将の息子を自らの手で斬殺する羽目になった。そのことに堪えられなかった名無しは、権力闘争の中で生きることを捨て、剣を封印した(ちなみ作中ではあと二つ「上司殺し」が発生しており、その違いを比べるのも面白い)。
 そしてクライマックスの戦闘のなか、手傷を負っている名無しに羅狼は増強剤兼痛み止めを分けてやるが、名無しはそれを拒否する。つまり、万全の状態で戦い抜くことに価値を感じていないのだ。

 「痛みがある方が、生きている気がする。」

 彼はヒエラルキーの頂点を目指す虎杖と道を違え、しかしナチュラルボーンキラーである羅狼とも違っている。権力闘争にも属さず、戦いそのものにも意味を見出さす、ただかけがえのない者を守り生き抜くことを求める。しかも、「生きている『気がする』」という科白のように、痛みによる生の実感がどこか不確かであることにも薄々感づいている。
 このように、どこにも属せない究極的に“ストレンヂア”である名無しだから、それをタイトルとする本作のラストで生き残ることができたのではないか。私はそんな風に考えている。

 ただしその名無しも、エンドロール寸前で死の気配を孕んでいる。しかしこれは彼がこの先死んでしまうということではなく、彼はこれからも自分の存在を確かにすることなく生きていくということの暗喩だと思う。 


 本作では、主人公達以外の、スクリーンに映ったモブ以外のメインキャラクターは皆死に絶える。決戦の末、明国サイドも赤池サイドも全滅。館に残された赤池の姫様だって、領主と主戦力を失ってはこれから生き延びていく手立てはないだろう。
 まるで、この作品世界の人間が全て死んでしまったような錯覚に囚われる。そして名無しと仔太郎達は、その後海外へ出ていくことがラストの会話で示唆されている。

 日本人は死に絶え、生き残ったストレンヂアは海の向こうへ。
 誰もいなくなった空っぽの国。その未来に生きている我々は、一体何者なのだろう・・・なんてね。


   ***


 まあぐだぐだ語ってきたけど、最初に述べたように、まず一つのチャンバラ時代劇アニメーションとして大々傑作なので、ただアニメ的快感を求める人にこそ是非おススメです。
 剣戟による刃毀れとか残心まできっちり描写したアニメってなかなかないよね。

 ボンズの南プロデューサーは、本作の続編をなんとか作りたいんだとか(構想自体はあるらしい)。
 また、7月のボンズオールナイト上映に参加決定しています。


 追記:安藤真裕監督のてがけた深夜アニメ『花咲くいろは』が映画化決定! 安藤監督が再びスクリーンの世界へ! これで知名度上げて、『ストレンヂア』続編の後押しになったらいいな。
 (2012.5.22)

 追記2:「劇中の現在時間では名無しと虎杖が会っていない」の部分ですが、実はラストの決戦の時に、名無しと虎杖(の死体)がワンフレームの中に映されているシーンがあったみたいです。
 「通りすがりのストレンヂアファン」さん、ご指摘ありがとうございました。

 追記3:>つまりこれは「日本」の物語ではないということだ。
 ちょっと誤解を招くような書き方をしてしまったが、この作品の「ストレンヂア」とは「日本人でない者/外国人」という意味では決してない。国籍ではなく、「権力闘争やヒエラルキーから疎外された者」という意味でのストレンヂア達の物語だ、と思う。
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テーマ:映画レビュー
ジャンル:映画

tag:ストレンヂア 安藤真裕

Comment

いや~、また見たくなってきた
これデビュー作ですもんね安藤監督、今思うとより凄い.

これは普通にアニメ史、どころか日本映画史に刻まれるべきですよ.
とは言えあんまり覚えていないのですが

南P,待ってますよ!

ボンズ、京アニ、P.A、ブレインズ、
良い会社はとにかく続編してほしい作品が多過ぎて困りますね
もちろん新作も見たい、けれどそれより
アレやアレの続編を作ってくれ~って欲望に勝てません.

>ヒノキオさん

コメントありがとうございます。

安藤監督、これが初監督ってのはすげーですね。
『CANAAN』や『花咲くいろは』も良かったです。

> これは普通にアニメ史、どころか日本映画史に刻まれるべきですよ.

いや本当、アクション時代劇邦画としては、未だに本作がアニメ実写問わず最高峰だと思います。
神山健治監督もコメント寄稿で絶賛してました。

> もちろん新作も見たい、けれどそれより
> アレやアレの続編を作ってくれ~って欲望に勝てません.

色々ありますよねー、次が観たい作品。
『エウレカ』『鋼』『DTB』等、ボンズは(比較的)傑作を一本で終わらせずに続編を作ってくれるイメージがあるので、『ストレンヂア』もまだ希望アリだと思います。
まずDVD売上の回収が終わらないことには始まらないらしいですが・・・。

江楠さんこんばんは。
江楠さんが薦めて下さった「ストレンヂア」、少し前になりますが視聴させて頂きました。

いやしかし、ここまで深く考察なさっていらっしゃったとは頭が上がりません。
戦いの裏にはこれだけのテーマがぎっしり詰め込まれていたんですねえ。
ただただ戦闘シーンに引き込まれ終始ぞくぞくしていただけの自分が恥ずかしい...w
もう一度、この感想を踏まえて改めて見てみたいと思いました。

続編も出るかもなのですか!
過去に折り合いをつける(まだ断ち切れてはいないと見た方がいいでしょうか)という成長を見せた名無しが次にどんな活躍と葛藤を見せてくれるのかはとても興味があります。
ぜひ期待したいですね!

>陽炎さん

コメントありがとうございます。

> 江楠さんが薦めて下さった「ストレンヂア」、少し前になりますが視聴させて頂きました。

いやあ、わざわざ観て頂いてありがとうございます。嬉しいです。
薦めた後で、「やべっ、PG-12だって書き忘れてた!」と焦ったりしてましたw

> 戦いの裏にはこれだけのテーマがぎっしり詰め込まれていたんですねえ。

うーん、実際制作陣がこの辺りを考えていたがどうかは分かんないんですけどね。あくまでこれは僕の独論ですから。
ただ映画のアクションを楽しむので正解だと思いますよ。
僕自身、観てる最中は「チャンバラ最高ー!」しか思いませんし。

陽炎さんの感想もいつか読みたいですね。

> 続編も出るかもなのですか!

DVD売上回収できて、企画にGOサイン出れば、という危うい希望ですが・・・
待ってるだけの価値はありますね。
僕も名無しと仔太郎のその後が気になります。

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江楠

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