『迷子の警察音楽隊』

2011.11.16 21:21|映画感想
 ・世界が平和でありますように
 迷子の警察音楽隊
 迷子の警察音楽隊

 2007.イスラエル
 監督・脚本:エラン・コリリン 撮影:シャイ・ゴールドマン 音楽:ハビブ・シェハーデ・ハンナ 
 キャスト:サッソン・ガーベイ、ロニ・エルカベッソ、サーレフ・バクリほか

 白い背景の中、明るい青の制服の男たちが茫洋として佇んでいる。何故だかペンギンの群れを連想させる、なんともかわいいDVDジャケットにつられて鑑賞。

 静謐な映画だった。
 誰かが声を荒げるような場面は一つもなかったように思う。全力疾走も、ド派手な爆発も、心臓に悪いようなシーンは皆無。
 ひたすら静かに、物語とも呼べないような他愛もない話が綴られていく。

 異国でさ迷った警察音楽隊が、食堂の女主人に一晩だけ泊めてもらう。その一晩の人々の様子をじっくり捉えた、それだけの話。

 誰も何も喋らないシーンが多い。しかしその無音の間が良い。
 食堂の女主人と団長が見つめあう幾多のシーン、イケメン団員が青年に女性の口説き方を「手とり足とり」教授するシーン、女主人と団長と団員達が黙って並んでいるシーン・・・。
 目が手が足が、口ほどにものを言う。そしてこの光景をずっとぼんやり眺めていたいと思う。

 そして、無音のシーンが素晴らしいかとおもえば、時折の会話のやりとりがまた素晴らしい。
 一つだけ抜粋。

「なんで警官がそんなこと(音楽)を?」
「ではなぜ人には魂が必要なのですか?」

 言葉が全てを説明するのではなく、一の言葉から万の事象を想起させられる。

 しかし私は、そうした会話そのものや沈黙そのものに魅力を感じたのではない。
 登場人物が会話に詰まってふと口を噤んでしまう瞬間、はたまた沈黙を破ろうと話し出す瞬間。そんな静寂と雑音の合間に人々が見せる表情や仕草にこそ本当に惹き込まれたのだ。
 その刹那に永遠を感じ、愛しくなる。
 そしてこの映画の出来事もまた、ほんの一夜の、刹那のエピソード。どれもこれも、たいしたことのない、ありふれた出来事ばかり。それでもやはり愛おしい。

 この物語がありふれているからこそ、私はこの世界に希望を見出す。そして、エジプトの人間をこともなげに受け入れるイスラエルの人々、という虚構にも真実を感じる。
 特別なことなんかじゃない。あり得なくなんかないさ。


 今、中東は革命の時代を迎えている。それは特別な奇跡だろう。
 私は、その奇跡が全てを変えてしまわないことを祈る。何が変わろうとも、ささやかなありふれた奇跡が、あの食堂が今もどこかに悠然と構えていることを、切に。


 元のレビューを書いたのは2011年2月末のこと。
 あれからおよそ9ヶ月、ジャスミン革命の余波はいつ終わるともしれない中東全体を巻き込む暴力の連鎖へと姿を変え、ロンドンでも過激デモがはびこり、日本は未曽有の災害に襲われ、ギリシャの破産をはじめ国際経済はその軸をますます揺るがし・・・、世界は悲嘆と憎悪の坩堝になっていくように感じている。

 でもだからこそ、やっぱり人間の変わらない優しさを信じたいと思うし、できるだけひとには優しくしていきたい。―――なんて。
 この映画を観ると、ガラにもなくそう思わされる。
 
 あと、この映画の独特の雰囲気って何か既視感あるなーと思ったら、初期の北野武映画のソレですね。特に『あの夏、いちばん静かな海。』。あの静けさから暴力性も抜き取った感じ。
 ほかには、『かもめ食堂』とか『めがね』とかの荻上直子監督の映画でしょうか。ただ、このテの邦画はちょっと純化&閉塞化され過ぎてる感がありますが。

 本作は、はじめから「分かりあいたい人」同士が「分かりあう」のではなく、彼らの言葉上のコミュニケーションは通じていないことの方が多く、そしてその関係はずっと続くものではない。
 異なる人々が、ひと晩だけ、一緒に居る。
 なんのことはない、それだけの映画。

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